国際税務入門(その4)-海外進出形態と恒久的施設
国際税務入門(その4)として、海外への進出形態とその留意点を確認していくことにします。
海外進出の形態としては、一般に駐在員事務所、支店、子会社の三つの形態が考えられ、設立時の手続等もこの順で複雑になるのが一般的です。
駐在員事務所
「・・・駐在」というような表現はよく耳にしますが、駐在員事務所勤務と支店勤務では何が違うのか?
そう問われると、一般的な感覚としては、駐在員事務所は支店よりも規模が小さいという程度のイメージしかないのではないかと思います。
そこで、まず駐在員事務所とは何かですが、本社への連絡事務所として位置づけられるもので、現地の法令等により、その業務範囲が現地での情報収集や市場調査、広告宣伝等に限定され、本社からの資金で活動が維持されるものを意味します。
つまり、支店との一番の違いは、駐在員事務所が契約交渉や販売活動等を行ったり、それらの活動から収益を獲得することは認められないという点です。
そのため海外駐在員事務所は、いわば本社の補助的機能を果たすためのものと位置付けられ、一般的にはその法人の恒久的施設には該当しないとされています(OECDモデル条約第7条)。そして恒久的施設がなければ課税しないという国際税務のルールに基づき、駐在員事務所にはその国での法人税申告義務を課していない国がほとんどとなっています。
恒久的施設とは?
それでは恒久的施設とは何かですが、OECDモデル租税条約2010年版の第5条(恒久的施設の定義に関するコンメンタリーでは以下のように定義されています。
「恒久的施設」には、特に、次のものを含む。
a) 事業の管理の場所
b) 支店
c) 事務所
d) 工場
e) 作業場、及び
f) 鉱山、石油又は天然ガスの坑井、採石場その他天然資源を採取する場所
なお、上記の原文はこちらから確認できます。
一方で、以下のようなものについては恒久的施設には含まれないとしています。
1)商品等の保管、展示、引き渡しのための施設
2)商品等の仕入のための施設
3)情報収集のための施設
4)準備的または補助的な活動のための施設
基本的には、当該施設での活動において現地の課税権が及ぶべき利益が創出されているかがポイントとなるとのことです。
例えば、非居住がインターネット販売において、日本へ輸入した商品の発送業務を行っていたアパートと倉庫が恒久的施設にあたるかで争われた事案において、国税不服審判所は「本件アパートと本件倉庫については、その販売市場である日本国内における商品の在庫の唯一の保管場所であるとともに、輸入した商品に日本語版取扱説明書等の添付という経済的付加価値を付与する場所でもあり、事業の収益性の向上を図っていくうえで、重要な機能を有する必要不可欠の場所であったということができると判断」し、これら施設を恒久的施設と判断しています(T&A master No.458)。
なお、OECDは第5条(恒久的施設)に関して、4年にわたり検討を行っており、提案されている追加・修正が反映され、モデル租税条約が2014年中に改正される見込みとのことです(税理士法人プライスウォータークーパースHP「OECDモデル租税条約第5条(恒久的施設)の改正提案」より)。
海外駐在員事務所が恒久的施設認定された場合
話がそれましたが、海外駐在員事務所は、前述のとおり本社の補助的な機能を果たすにすぎませんので一般的には恒久的施設に該当しないと考えられます。
しかしながら、少しくらいなら問題ないだろうと駐在員が本来の活動範囲を超えて営業活動を行っていたような場合には、現地において海外駐在員事務所が恒久的施設と認定される可能性があります。
この場合、現地で申告義務が発生し課税された場合であっても、日本の税制上は国外所得金額が生じるとは限らないため、二重課税を排除することができないというケースに陥ることも考えられます。特に、中小企業が海外へ進出を考えているような場合、この辺を緩く考えていることがありますので、十分注意する必要があります。
また、国によって恒久的施設の認定に積極的ということもあるようなので、現地の認定基準をきっちりと確認して慎重に検討するということが重要となります。
長くなりましたので、今回はここまでとします。
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