貸倒引当金回避目的の債権放棄で寄附金認定
T&A master No.592に「貸引避ける目的の債権放棄で寄附金認定」という記事が掲載されていました。
貸倒引当金の計上を回避することを目的とする債権放棄だと直感的に致し方なしという感じはしますが、この記事で紹介されていた事案のケースでは寄附金認定を回避できなかったのだろうかという気もします。
前提情報として、法人税法基本通達9-4-2では「(子会社等を再建する場合の無利息貸付け等)」として以下のように述べられています。
9-4-2 法人がその子会社等に対して金銭の無償若しくは通常の利率よりも低い利率での貸付け又は債権放棄等(以下9-4-2において「無利息貸付け等」という。)をした場合において、その無利息貸付け等が例えば業績不振の子会社等の倒産を防止するためにやむを得ず行われるもので合理的な再建計画に基づくものである等その無利息貸付け等をしたことについて相当な理由があると認められるときは、その無利息貸付け等により供与する経済的利益の額は、寄附金の額に該当しないものとする。(昭55年直法2-8「三十三」により追加、平10年課法2-6により改正)
(注) 合理的な再建計画かどうかについては、支援額の合理性、支援者による再建管理の有無、支援者の範囲の相当性及び支援割合の合理性等について、個々の事例に応じ、総合的に判断するのであるが、例えば、利害の対立する複数の支援者の合意により策定されたものと認められる再建計画は、原則として、合理的なものと取り扱う。
紹介されていた事案は、東証2部上場の会社が多額の損失を計上したことにより、継続企業の注記が付いたことを契機に、金融機関とシンジケートローンを締結したことに端を発するとのことです。
子会社の経営状況が悪化していたため、同社が子会社に対する債権放棄を実施し、これを費用処理していたものが税務調査で問題(寄附金として認定された)となったとされています。
これに対して会社は裁判の中で、監査法人による監査の際に、子会社に対する債権全額(約12億円)について貸倒引当金を計上しなければ適正意見を出せない旨の指摘があったとした上で、以下の2点から貸倒引当金の計上を回避するために債権放棄(約3億円)に踏み切ったと主張したとのことです。
- 貸倒引当金を計上した場合には金融機関からの信頼を失うことが予想されたこと
- 配当可能原資(剰余金)が枯渇することで投資家等の信頼を失う恐れがあったこと
これ以上詳細な内容が紹介されていないので何ともいえませんが、債権放棄にしても貸倒引当金の計上にしても同じ損失が生じるのであれば金融機関からの評価がそれほど変わるものなのか、剰余金に与える影響はどちらも同じように思いますのでイマイチしっくりきません。
ただし、監査上債権額全額(約12億円)に対して貸倒引当金を計上しなければ監査意見がでないというレベルであれば、当該子会社の財政状態が著しく悪く、親会社が見放せば倒産する可能性がかなり高い状況にあったと推測されますので、合理的な再建計画があれば寄附金認定は回避することができる可能性は結構あったのではないかと思います。
約12億円ある債権のうち約3億円の債権放棄も、疑って見れば怪しいですが、合理的な再建計画を立てたうえで、債権放棄額を最低限にとどめたということであれば、税務上の要請にもマッチしているのではないかと思います。
税務調査の過程は分かりませんが、事前にきっちりした資料を作成してあれば寄附金認定も回避できたのかなという気もします。いずれにしても、一般的に不自然な目的の取引は税務上もリスクが高いと考えておいたほうがよいということなのだと思います。
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