粉飾により7か月で上場廃止になった会社の監査人に対し懲戒処分-なぜ今頃?
会計士協会の会員サイトに2016年5月30日付で会員の懲戒処分のリリースが4件掲載されていました。
税理士としての業務で懲戒処分を受けたことによるものであることがほとんどなのですが、何気なく見てみると興味深いものがありました。
4名の公認会計士に対して「会則によって会員に与えられた権利の停止5か月」という業務停止処分が下されていました。懲戒処分の理由は「監査業務における禁止行為」に該当したためで、対象となった事案が平成20年3月期及び平成21年3月期の財務諸表監査にかかるものとなっています。
対象となった被監査会社は、半導体製造装置の販売・開発を主要事業として平成21年11月にマザーズに上場していた会社で、上場期間7か月で上場廃止となり、その後倒産したとされています。
5年以上も前のことで、なんていう会社だったかなと検索してみて、思い出しました。
エフオーアイ。これが、当時世間を賑わせた会社の名前です。
どんな事案だったのかをおさらいしておくと、上場時の売上高は実際2億円程度に過ぎなかったにもかかわらず、売上高を118億円と約60倍に水増しするという、ものすごい粉飾を行い、52億円を資金調達したにもかわらず、それまでの上場廃止までの最短記録(10か月)を更新し、7月月で上場廃止に至ったというものです。また、売上高118億円にもかかわらず、200億円以上の売掛金残高を計上していたという点でも普通ではありませんでした。
さらに、この事案では、東証の上場審査に問題があるとして、東証も訴えられて話題となったと記憶しています。
当時の財務諸表を改めて確認してみると、連結BSおよび連結PL(売上)は以下のようになっていました。
また、提出会社の主要な経営指標の推移は以下のようになっています。
上記の推移からすれば、マザーズ上場企業にふさわしい成長著しい会社ということになりますが、実際は全くちがったということになります。
さらに、上場日に同社が開示したリリースによると業績予想は以下のように、順調に成長するような業績予想となっています。
これが事実であれば52億円でも調達できるよなという感じですが、残念ながら全く実態は異なっていたということで、その後、当時の社長や専務には実刑判決が下されたと報道されています。
会計士協会は、同社を担当した会計士の監査に問題があったとして懲戒処分を下した訳ですが、例えば売上高及び売掛金については、関連数値の分析、売掛金の回収可能性の検証、売上取引の監査手続及び海外の取引先への往査のそれぞれの点について監査手続きに重要な不備があったとしています。
ところで、5年以上も前に倒産している会社の監査について、なぜ今頃懲戒処分が下されているのだろうかというのが気になるところです。
エフオーアイ被害株主弁護団のサイトをみると、最新の情報が第28回口頭弁論(平成27年8月21日)で止まっていますので、期間を勘案すると株主代表訴訟が決着したということなのかなと推測されますが、ネットを検索しても関連する情報は見当たりませんでした。
いままであまり考えたこともありませんでしたが、株主代表訴訟中に会計士協会が監査に問題があったとして会計士に懲戒処分を下せば、それは一般的に要求される専門家としての注意義務を果たしたしていないということが認められたということになってしまい、訴訟において不利になることは考えられますので、訴訟の決着がつくまで懲戒処分を控えていたということであれば納得できます。
最終的に監査人がどのような責任を負うこととなったのか、どこかで取り上げられるのを待ちたいと思います。