着替えの時間は労働時間として取り扱われるか?
日本法令が運営しているサイトで提供されていた情報に以下のようなものが掲載されていました。
弁護士や労働組合などが中心となって立ち上げた、賃金不払いを一掃しようとするプロジェクト「NO MORE 賃金泥棒」が、アルバイト等で働く若者407人の仕事の実態について調査したところ、「不払いがある」と答えた人が30%に上ることがわかった。賃金が15分単位の切捨てになっていたり、制服への着替え時間が労働時間から除外されたりするケースが見られた。
賃金に関してはノーワークノーペイが原則とされており、これは逆に言えば労働時間については1分であっても賃金を支払うべきということになるため「賃金が15分単位の切捨て」になっていると「不払い」といわれても仕方がありません。
もっとも、個人的には、1分単位で賃金を請求できるほど就業時間中ずっと職務に専念していたかといわれると正直自信はありませんが・・・
一方で、「制服への着替え時間」を労働時間として取り扱うべきか否かについては、質問されれば、労働時間に含めておいた方が問題となることがないので無難です、というような回答になると思いますが、実際に労働時間性を争った場合にはどっちに転ぶ可能性もある問題だと思います。
たとえば、労働法第10版(菅野和夫 著)では「作業衣への着替えや保護具(安全靴、安全帽)の着用は、義務的で、しかもそれ自体入念な作業を要する場合を除いては業務従事の準備にすぎないといえよう。」と解説されています。
上記の解説に従うとして「義務的」かどうかは比較的判断しやすいですが、「それ自体入念な作業を要する」のかどうかについては判断に迷います。つまり、「それ自体入念な作業を要する」のでなければ、業務従事の準備に過ぎないので労働時間としては取り扱わないということも考えられるところ、「それ自体入念な作業を要する」に該当するのはどのレベルのものなのかが明確ではありません。
労働時間の開始時点が争われた判例がいくつかありますが、三菱重工長崎造船所事件の最高裁判例(平成12.3.9)では、労働時間について以下のように述べられています。
まず、「労働基準法第32条の労働時間とは労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、その労働時間に該当しているか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではないと解するのが相当である。」として、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている状態であるかどうかが判断材料とされています。
その上でこの判例では以下のように述べられています。
「労働者が、就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ、又はこれを余儀なくされたときは、当該行為を所定労働時間外において行うものとされている場合であっても、当該行為は、特段の事情のない限り、使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、当該行為に要した時間は、それが社会通念上必要と認められるものである限り、労働基準法上の労働時間に該当すると解される。」