粉飾決算で破綻した会社の取引先に訴えられた税理士の責任は?
T&A master No.649に「顧問先が粉飾決算で経営破綻、取引先が顧問税理士に賠償請求」という記事が掲載されていました。
粉飾決算が発覚し、後に税理士に損害賠償請求訴訟が提起された事案は、”粉飾決算に対する税理士の責任は?”でも取り上げたので、そこそこある話なのだと思いますが、上記の事案では税理士が関与先企業から訴えられたのに対して、今回の事案では取引先から訴えられたという点で異なります。
この事案では、会社の代表者が赤字決算を避けるため単独で粉飾を行っていたとされています。具体的には、架空の仕入割戻しによる未収入金を計上していたそうです。
そして、同社が経営破綻に至ったことで、約2億6000万円の売掛債権が回収不能となった同社の取引先が顧問税理士に対して、損害賠償を請求したとされています。取引先企業は、顧問税理士は破産会社の粉飾決算の事実を容易に知り得た立場にあったので、故意又は過失により粉飾決算に加担したことは明らかであるとして損害賠償を求めました。
では、同社がどれくらいの粉飾を行っていたかですが、上記の記事によると申告書に記載された未収入金の金額の推移は以下のようになってます。
平成18年8月期 0円
平成19年8月期 9,993万円
平成20年8月期 2億6,968万円
平成21年8月期 4億4,689万円
平成22年8月期 6億359万円
平成23年8月期 8億4,967万円
平成24年8月期 10億8,477万円
上記の金額の大部分は架空のものとのことですので、毎年1億円~2億円程度をコンスタントに粉飾していたということになります。
上記の金額の推移からすると、これは顧問税理士も気づくべきではないかという意見も想像されますが、この事案では、顧問税理士も未収入金の内容について疑問を感じ、未収入金が回収できない理由を代表者からその説明を受けており、その回答内容も不合理というほどではないので、そのような説明を信用したことに過失があるとはいえないと裁判所は判断したとされています。
また、「粉飾発覚の約2年前に実施された破産会社に対する税務調査の際に、代表者は、顧問税理士から仕入割戻しについての資料を求められたため、取引先企業名義の書類を改ざんして、申告書に記載された未収入金に見合う仕入割戻しの金額などを記載した書類を偽造したうえで、顧問税理士に交付していた」そうです。
税理士の立場からすると、取引先に直接確認を行うのは難しいというのも「得心できないわけではない」し、上記のような状況をふまえると、顧問税理士がそれ以上疑問を抱かなかったことはやむを得ないとして、取引先企業の顧問税理士に対する損害賠償請求は斥けられました。
会計監査であればおそらくアウトでしょうが、税理士という立場であれば過失があるといえるほどではないという判断です。このケースでは質問調査権を有する税務当局による税務調査でも粉飾決算が発見できなかったわけですが、国を訴えるということはできなかったのかは興味があるところです。
いずれにせよ、このような痛い目にあう前に与信管理はきちんとするよう心がけましょう。