扶養控除等申告書におけるマイナンバーの取扱い(その1)
給与所得者の扶養控除等(異動)申告書におけるマイナンバーをどうするということが話題となる時期になりました。実務担当者としては、結局のところ一番負担を軽減できる方法を利用したいと考えるところですが、国税庁のFAQも昨年末以降改正が加えられていることもあり、原則的な方法およびそれ以外でとりうる選択肢に何があるのかについて整理してみることとします。
1.原則的な方法
原則としては、扶養控除等(異動)申告書に以下のように個人番号を記載する欄が設けられていることからもわかるとおり、個人番号を従業員が記載して会社に提出するということになります。
扶養控除等申告書の法令根拠を確認してみると、所得税法194条1項本文で以下のように規定されています。
(給与所得者の扶養控除等申告書)
第百九十四条 国内において給与等の支払を受ける居住者は、その給与等の支払者(その支払者が二以上ある場合には、主たる給与等の支払者)から毎年最初に給与等の支払を受ける日の前日までに、次に掲げる事項を記載した申告書を、当該給与等の支払者を経由して、その給与等に係る所得税の第十七条(源泉徴収に係る所得税の納税地)の規定による納税地(第十八条第二項(納税地の指定)の規定による指定があつた場合には、その指定をされた納税地。以下この節において同じ。)の所轄税務署長に提出しなければならない。
同条各号を見ていくと、申告書の提出者の個人番号の記載が見当たりませんが、8号の「その他財務省令で定める事項」については、所得税法施行規則73条で規定されており、同条1号で以下のとおり提出者の個人番号の記載が求められています。
(給与所得者の扶養控除等申告書の記載事項)
第七十三条 法第百九十四条第一項第八号(給与所得者の扶養控除等申告書)に規定する財務省令で定める事項は、次に掲げる事項とする。
一 法第百九十四条第一項の規定による申告書を提出する者(以下この項において「申告者」という。)の氏名、住所(国内に住所がない場合には居所とし、国内に住所及び居所がない場合には国外における住所又は居所とする。以下この章において同じ。)及び個人番号(個人番号を有しない者にあつては、氏名及び住所。以下この章において同じ。)
あらためて確認するまでもなかったかもしれませんが、上記より所得税法上は、従業員が扶養控除等(異動)申告書に個人番号を記載することが必要であるということになります。したがって、個人番号を記載してしまうと管理が面倒だという理由のみで、会社が扶養控除等申告書に個人番号を記載しないように求めるのは、従業員に所得税法に反する行為をさせることになるので注意が必要です。
昨年の段階では、平成28年分の扶養控除等(異動)申告書の記載にあたり、管理体制が整っていないのであれば、個人番号の記載を求めるべきではないという見解もありましたが、平成29年分の扶養控除等(異動)申告書ではそういうわけにはいきません。
1-1 昨年末に平成28年分の扶養控除等(異動)申告書を個人番号の記載なしで収集した場合の取扱い
昨年末に従業員等に記載してもらった平成28年分の扶養控除等(異動)申告書を個人番号の記載なしに収集した場合、平成28年分の扶養控除等(異動)申告書に個人番号を記載してもらう必要があるのかという点が問題となります。
実務上、昨年収集した申告書を一度従業員に戻して扶養者等に変更があれば訂正してもらうことが多いのではないかと思いますが、平成28年分の扶養控除等(異動)申告書を再度従業員に渡すのであれば個人番号を記載してもらう必要があるのではないかということです。
この点、国税庁のQ&A1-2の「平成27年中にマイナンバー(個人番号)の記載のない扶養控除等申告書を受領していた場合、平成28年中に従業員に補完記入してもらう必要はありますか」という問いに対して、「平成27年中にマイナンバー(個人番号)の記載のない扶養控除等申告書を受領していた場合、平成28年以降、従業員に従業員等のマイナンバー(個人番号)を補完記入してもらう必要はありません。」とされていますので、素直に解釈すると個人番号を追記してもらう必要はないということになります。
この回答は、実務上、昨年回収した扶養控除等申告書が従業員に一度戻されるという実務を念頭においたもののはずなので平成28年分については個人番号欄は空欄のままでもよいということだと思われます。
なお、上記Q&Aでは、個人番号の補完記入を求めても差し支えないとされていますので、記載を求めることも問題ありません。
1-2 個人番号の提供を拒む方がいた場合はどうする?
これは、どちらかというと従業員よりも外部者との関係で問題となる可能性が高いですが、何らかの理由により個人番号の提供を拒む方がいた場合、会社がすべきことは以下の二つです。
- 法令で必要とされている旨をきちんと説明する
- 記録を残す
上記を果たせば、結果として個人番号を収集できなかったとしても問題ありません(国税庁Q&A Q1-13参照)。
国税庁のQ&Aでは「提供を求めた経過等を記録、保存するなどし、単なる義務違反でないことを明確にしておいてください」と記載されているのみで、記録のレベル感については特に述べられていません。
単なる義務違反でないことを明確にするということであれば、いつどのような手段で個人番号の提供を求めたのか、それに対する従業員等の反応について簡単に記録が残っていれば問題はないものと考えられます。
提供を拒否された場合に、何度も提供を求めなければならないのかという点も問題となりますが、法定調書関係のQ&A1-2において「今回マイナンバー(個人番号)の提供を受けられなかった方に対して、引き続きマイナンバーの提供を求めていただきますようお願いします。」と記載されている程度ですので、提供求める→拒否される→法令で必要なので提出を再度求める→拒否される、というような程度で十分だと思われます。
今回はここまでとし、個人番号を記載しない方法等については次回とします。