「高額特定資産」とはなんですか?(その1)-平成22年改正から確認
「高額特定資産」は、棚卸資産または調整対象固定資産で、一取引単位につき、税抜の取得金額が1,000万円以上の資産を意味し、平成28年4月の消費税法の改正によって、原則として平成28年4月1日以後に取得したものから当該資産として取り扱われることとされています。
「高額特定資産」は上記のものを意味しますが、そもそもこの改正が行われるに至った経緯を理解しておかないと、改正の意味を理解しにくいと思われますので平成22年度改正にさかのぼって、改正の経緯を確認していくこととします。
ここ数年消費税法がよく改正されますが、消費税の課税逃れとそれを防止するための新制度という形で改正が行われているという側面が大きくなっています。しかしながらこのような度々の改正によって、特に課税逃れを意図していなくても気づかずに落とし穴にはまる可能性がありますので、改めて改正の経緯について確認して置くことは有用だと思われます。
1.自販機の設置による消費税の還付スキーム
自販機を利用して消費税の還付を受けようとするスキームについては聞いたことがあるかもしれませんが、平成22年度の消費税法の改正は、これを封じ込めることを目的とするものだったそうです。
今さらではありますが、どんなものであったのかを簡単に確認しておくと以下のようなスキームでが横行していたと言われています。
新たに居住用の賃貸物件を建設し賃貸事業を開始しようとする場合、居住用の賃貸であれば家賃収入は非課税売上となるため、課税事業者を選択し、普通に事業を開始すると課税売上割合が低くなり、建物の取得に関連した生じた仮払消費税の大部分は仕入税額控除をとることができないこととなってしまいます。
そこで、建物の完成を年末頃として、実際の賃貸は翌年から開始することとする一方で、自販機を設置し、収益をあげるようにします(自分で買えば必ず売上はあがります)。自販機の売上は課税売上なので、非課税の家賃収入がなければ、課税売上割合は95%以上となり、建物の取得に要した消費税の還付を請求することができたという流れです。
課税事業者を選択した場合は、翌年度も課税事業者を選択する必要がありますが、住居の賃貸業の場合、発生原価は減価償却費、借入金の支払利息、租税公課など課税仕入にならないものが多いところ、中小事業者は簡易課税の特例を利用することが可能でした。
さらに、1期目の課税売上高が1000万円以下であれば、翌年中に届出を提出することにより3期目は免税事業者となることが可能となっていました。
こんなスキームが一般的に行われていたとのことで、平成22年度の改正によって「調整対象固定資産」なるものを設け、上記のスキームの封じ込めが図られました。
2.調整対象固定資産とは?
調整対象固定資産とは、棚卸資産以外の資産で、建物、構築物、機械及び装置、船舶、航空機、車両及び運搬具、工具、器具及び備品、鉱業権等の無形固定資産その他の資産のうち、その資産の税抜の取得価額が一取引単位につき100万円以上のものを意味します。
ここで金額的な基準値が100万円という小さな金額に設定されてしまったため、一般人がワナに嵌まる可能性が飛躍的に高まってしまったと考えられます。自販機設置のスキームを封じ込めることが目的であったのであれば、建物の取得価額を想定し1000万円位に設定しても問題なかったのではないかと思われますが、100万円という基準であるため特に課税逃れなどと考えることなく新車といわずちょっといい複合機を1台購入しただけであっても調整対象固定資産が生じ、思わぬ規制の対象となってしまう可能性があります。
なお、平成22年度改正で導入された調整対象固定資産は、棚卸資産が対象外となっているという点が平成28年の改正に繋がっていきます。すなわち、平成22年改正によって、自販機スキームの封じ込めが行われたものの、棚卸資産として建物を保有しているような場合に、棚卸資産の取得年度は本則課税、売却年度は簡易課税を選択することにより益税を狙うということはあったようです。