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総会決議のない退職慰労金

T&A master No.668に「総会決議のない退職慰労金の返還を命じる」という記事が掲載されていました。

個人的にそれはそうだろうと感じましたが、記事の内容を確認してみると、この事案(東京地裁平成28年8月19日判決)は、定款に退職金の定めがないにもかかわらず株主総会を開催せずに約4億円の退職慰労金を受領したと主張して、会社が元代表取締役に退職慰労金の一部(1億円)の返還を請求したというものでした。

全額ではなく一部なの?という感じですが、会社としては3億円なら妥当だと考えるが、4億円はもらいすぎだから1億円は返還せよということなのだと推測されます。この事案において、当該代表取締役は、過去、株主総会が開催されたことはなかったなどとして、会社が退職慰労金の返還を求めることは信義則に反し権利濫用として許されないと主張したとされています。これに対して「裁判所は、当該退職慰労金の支給に当たりその金額の定めは原告会社の定款になく、また株主総会の決議も経ていなかったことから、本件退職慰労金の支給は法律上の原因を欠き原則として不当利得となると指摘(最判平成21年12月18日参照)」し、当該元代表取締役が慰労金支給当時に株主でなかったこと、退職慰労金の支給につき利害関係人であったことに照らせば、会社の運営が代表取締役に一任されており、株主総会の開催実績がないような事情があっても、そのような事情を権利濫用の評価根拠とみることはできないとして、代表取締役に1億円の返還を命じる判決を下したとのことです。

会社が請求したのが1億円の返還なので、裁判所は残りの3億円も返還しろとは言わないわけですが、残りの3億円についても、上記の裁判所の判断から明らかなように本来は支給要件を欠いています。

「会社法による役員報酬・賞与・慰労金の実務Q&A―法令・書式・判例のすべて」(小林公明 著)でも、役員退職慰労金の成立要件は以下の三つとされています。

  1. 会社と役員の間の慰労金に関する特約
  2. 役員の退任
  3. 定款又は株主総会決議による慰労金額の決定

上記の事案では会社が元代表取締役に対して支給額の一部返還を請求していますが、仮に株主の誰かが株主代表訴訟として4億円の支給が無効だという訴えを起こしたとすると全額の返還が必要ということも考えられます。この会社は同族会社とされていますので、そのような可能性は低いと考えられるものの、現に1億円だけは返還を求める請求がなされているので可能性はゼロではありません。

株主数が限られる同族会社の株主総会は、形式的なもの(あるいは書面だけのもの)である可能性は高いですが、そうはいっても、株主総会決議があるのかないのかによって、結論は大きく異なりうるので、特にこのような金額が大きな事案の場合は、面倒であってもきちんとした手続きを取るようにすべきだと考えられます。

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