役員規程で取締役の辞任を制限できるか?
東証JASDAQグロースに上場している(株)デジタルデザインでは、どうやら内部で揉め事が発生しているようですが、その内容はともかくとして、同社が2016年11月8日に開示した「当社前代表取締役社長の取締役辞任申し出について及び当社株式譲渡取引に関するお知らせ」の「1 寺井和彦氏(当社の前代表取締役社長)の取締役辞任に関して」には、会社が当該辞任を認めない理由の一つとして以下のように記載されています。
当社の「役員規程」第7条第1項により、役員は、辞任しようとするときは、辞任理由のいかんにかかわらず、6ヶ月前までに会社に届け出なければならないと定められており、寺井和彦氏の辞任は、ただちに認められるものではない。
従業員についても就業規則において退職の1ヶ月前までに届け出なければならないというような定めがされていることがあります。しかしながら、民法上、期間の定めのない雇用契約の場合、従業員はいつでも退職を申し出ることができ、退職の申出後2週間を契約することにより労働契約は解除されることなります(民法627条1項)。つまり会社の許可などは不要で、期間経過により退職が認められるということになります。
したがって、退職を希望する従業員の意思が固く、上記の民法の定めにより2週間での退職を主張する場合、就業規則の定めを根拠に法定以上の期間の就業を強制することは難しいということになりますので、このようなケースでは就業規則の定めに意味はないということになります。
一方で、転職等による大多数の退職者は、就業規則に1ヶ月前と書いてあれば、会社に迷惑をかけないように1ヶ月前に申し出て業務の引き継ぎ等をきちんと行ってくれるので、紳士協定的な意味を有しているといえます。
それでは、会社法330条により会社と委任関係にあるとされる役員の場合はどうなるのでしょうか?
この点、取締役・執行役ハンドブック第2版(中村 直人 編著 商事法務)では以下のように解説されています。
取締役はいつでも辞任することができる(民法651条1項)。ただし,会社のために不利益な時期に辞任したときは,やむをえない事由がある場合を除き,会社に生じた損害を賠償する義務がある(法330条,民法651条2項)。辞任しない旨の会社と取締役の間の合意の効力に関しては,学説が分かれている。裁判例の中には,そのような合意の効力を否定するものもあるが,債権的効力を認めるもの,取締役間または株主・取締役間では効力を認めるもの等がある。
上記から場合によっては損害賠償責任を負う可能性あるものの、原則としては本人の意思により自由に辞任することが可能ということになります。ただし、「辞任しない旨の会社と取締役の間の合意の効力に関しては,学説が分かれている。」とあり、役員規程の「6ヶ月前までに会社に届け出なければならない」という定めは、「辞任しない旨の会社と取締役の間の合意」のようなものと解釈することもできるのではないかと思います。
であるとすると、そのような定めの効力は有効とする説と反対説の双方が存在するということになり、結局のところ裁判をしてみないとどちらに転ぶかは分からないということになりそうです。