監査報告書にサインする会計士の数に意味はある?
今年もそろそろ終わりなので、やや緩い話題です。ほとんど気にする人はいないのですが、まれに監査報告書にサインする会計士の数に意味はあるの?ということを聞かれます。
上場会社の監査報告書では、監査報告書に署名している会計士の数は2名から4名が一般的だと思います(といってもEdinetでは記名しか確認できませんが)。個人的に5名以上の署名のある監査報告書は目にしたことはありません。
そもそも海外のAnnual Reportだと法人名でサインされているのが通常ですが、日本の場合、公認会計士法34条の12第2項で「監査法人が会社その他の者の財務書類について証明をする場合には、当該証明に係る業務を執行した社員は、当該証明書にその資格を表示して自署し、かつ、自己の印を押さなければならない。」とされているので、業務執行社員は個人名で署名押印が必要とされていますが、人数については特に定めはありません。
それでは人数は何で決まっているのかですが、これは各法人の方針にによるということのようです。わかりやすいと思われる例として、今年日米同時上場で話題となったLINEの監査報告書があげられます。
規模と米国での上場もあるので当然署名は4名だろうと想像しましたが、直前期の監査を担当したPWCあらた監査法人の監査報告書は2名体制となっています。一方で直前前期の監査を担当した有限責任監査法人トーマツの監査報告書は4名体制となっており、法人間のスタンスの違いがうかがわれます。
一般的に規模が大きくなると監査報告書の署名人数も多くなりますが、三菱商事、三井物産、伊藤忠はいずれもトーマツで4名体制に対して、住友商事はあずさ監査法人で3名体制となっています。あずさ監査法人はNTTやNTTドコモも3名体制となっていますので、署名の最大人数は3名ということなのかもしれません。
一方で新日本監査法人は東芝や富士通の監査報告書が4名体制となっていますので、最大4名体制であると思われますが、日立製作所の監査報告書は3名体制となっていますので、会社の規模が大きければ4名体制ということでもないようです。
上記のとおり署名人数の方針は法人間で異なるようですが、監査報告書に署名する人数が増えるといいことがあるのでしょうか。この点については、業務執行社員として監査報告書に署名すると負う責任も重いので、理屈の上では、署名する人数が増えればいいかげんな監査が行われにくくなるという側面があると考えられます。
ただし、監査報告書の署名順序は通常、法人内における序列を意味するので、下位者が上位者の判断にきちんと意見できることと上位者がきちんと被監査会社の状況を理解していることは最低限必要となり、このあたりは法人内での風通しのよさが問題となりそうです。
また、株主の立場からすると責任追及できる者が増えることとなりますが、大きな問題が生じた場合に個人で負うことのできる責任は微々たるものと考えられますので、この観点からは3名でも4名でも実際にはあまり影響はないものと考えられます。
基本的に法人の審査がきちんとあるのであれば、個人的に監査報告書の署名者が増えると高くなるのは監査の質ではなく報酬という気がするので、最大3名くらいでよいのではないかという気はしています。