配当金は持参債務-株主が海外に居住している場合はどうする?
上場会社の場合、配当金の支払については信託が取り仕切ってくれるのであまり気にすることがない条文ではないかと思いますが、会社法457条1項では「配当財産の交付の方法等」として以下のように定められています。
配当財産(第455条第2項の規定により支払う金銭及び前条の規定により支払う金銭を含む。以下この条において同じ。)は、株主名簿に記載し、又は記録した株主(登録株式質権者を含む。以下この条において同じ。)の住所又は株主が株式会社に通知した場所(第三項において「住所等」という。)において、これを交付しなければならない。
要は、会社が配当を実施する場合には、株主名簿に記載された住所または株主が会社に通知した場所において交付しなければならないということで、いわゆる持参債務の取扱いとなっています。
非上場会社であっても株主に振込口座を指定してもらい、その口座に振り込めばよいだけではありますが、株主が日本国外に居住しているような場合にはどうなるのかが問題となります。非上場会社において国外に株主がいる株主は数が限られるので、気にしないで海外の口座等へ振込むということも考えられますが、振込手数料の桁が異なるので配当額よりも手数料の方が大きいというようなことも起こりえます。なお、会社法457条2項において「配当財産の交付に要する費用は、株式会社の負担とする。」とされていますので、振込手数料は原則として会社の負担ということになっています。
上記の点について、会社法457条3項では「前二項の規定は、日本に住所等を有しない株主に対する配当財産の交付については、適用しない。」とされています。したがって、株主が日本国外に居住している場合、海外の口座に振り込む必要はないということになります。
では、このような場合どうするのかが問題となりますが、一般的には配当受領権限等を委任されている常任代理人または国内の仮住所宛に配当金を交付することとなります。
これは、会社の定款あるいは株式取扱規則に以下のような条文が定められていることが一般的であるためです。
規定例
外国に居住する株主若しくは登録株式質権者又はその法定代理人若しくは代表者は、日本国内に常任代理人を選任するか、又は日本国内において通知を受ける場所を定め、当会社に届け出なければならない。これらに変更があった場合も同様とする。
(定款・各種規則の作成実務 第3版 森・濱田松本法律事務所編 中央経済社 P77)
仮に定款等に上記のような定めがない場合も、上記の通り持参債務の考え方は採用されていない(457条3項)ので、海外へ振込等を行う必要はないはずですが、仮にどうしても海外へ振り込んで欲しいということであれば、費用負担の原則を定めている会社法457条2項の但し書きにおいて「ただし、株主の責めに帰すべき事由によってその費用が増加したときは、その増加額は、株主の負担とする」とされているので、株主の費用負担で海外へ振込を行うというということは考えられます。
配当よりも手数料の方が大きいような場合などは、国内の受領代理人を指定してもらうということになると考えられます。