株主優待で金券を交付した場合は源泉徴収必要か?
2017年5月25日に昨年東証マザーズに上場化した株式会社エイトレッドが「株主優待制度の新設に関するお知らせ」という適時開示を行いました。
優待内容としては、所有株式数100株以上の場合クオカード年間4000円、500株以上でクオカード年間6000円、1000株以上でクオカード年間8000円となっています。
同社が4月27日に公表した決算短信における平成30年3月期の配当予想は年間31円なので、100株保有の場合に限れば、通常の配当以上の金券を受領できるということになります。配当的な側面のみで考えれば100株保有するのが最も利回りがよく、1単位保有の株主を増やしたいということだと思われます。
同社は東証一部のソフトクリエイトホールディングスを親会社とする親子上場会社であり、親会社が約6割の株式を保有しているため、東証一部への市場変更を見据えて、このような制度を導入して株主数を増やそうということだと推測されます。
いままであまり気にしたことがありませんでしたが、会社側では金券を株主優待として交付する場合、源泉徴収が必要なのだろうかという点が気になったので確認してみると、所得税基本通達24-2において以下のように述べられていました。
(配当等に含まれないもの)
24-2 法人が株主等に対してその株主等である地位に基づいて供与した経済的な利益であっても、法人の利益の有無にかかわらず供与することとしている次に掲げるようなもの(これらのものに代えて他の物品又は金銭の交付を受けることができることとなっている場合における当該物品又は金銭を含む。)は、法人が剰余金又は利益の処分として取り扱わない限り、配当等(法第24条第1項に規定する配当等をいう。以下同じ。)には含まれないものとする。(平19課個2-11、課資3-1、課法9-5、課審4-26改正)
(1) 旅客運送業を営む法人が自己の交通機関を利用させるために交付する株主優待乗車券等
(2) 映画、演劇等の興行業を営む法人が自己の興行場等において上映する映画の鑑賞等をさせるために交付する株主優待入場券等
(3) ホテル、旅館業等を営む法人が自己の施設を利用させるために交付する株主優待施設利用券等
(4) 法人が自己の製品等の値引販売を行うことにより供与する利益
(5) 法人が創業記念、増資記念等に際して交付する記念品
(注) 上記に掲げる配当等に含まれない経済的な利益で個人である株主等が受けるものは、法第35条第1項《雑所得》に規定する雑所得に該当し、配当控除の対象とはならない。
つまり、会社が配当として扱わなければ配当ではないので源泉徴収不要ということになります。株主側からすると、NISA口座に入っていない限り、通常の配当であれば源泉されて手取りが減るところ、現金同等物が額面で入ってくるというメリットがあります。
ただし、上記通達の注にあるように、このような株主優待の金券は雑所得に該当するとされているため、場合によっては確定申告が必要になったり、適用される税率が高いということも考えられます。しかしながら、大部分の株主は給与所得者で、雑所得が20万円を超えるケースも少ないと想定されるので、確定申告不要で株主優待万歳というケースが多いと思います。
会社側としても、配当であれば、保有株式数に比例して支払額が増加するのに対して、上記のような株主優待制度であれば、約6割の株式を保有する株主に対しても年間コストは少額に抑えることができますので、支出を抑えつつ株主を増やす効果が期待できます。
さらに損金算入して節税効果もあるのかですが、そこまで甘くはありません。このような株主優待の交付は、会社が配当として経理しない限り、原則として交際費等として取り扱われます。
これは、株主も事業関係者に含まれるため株主に交付する経済的利益の供与は接待、贈答等と同じであるという考え方によるものです。したがって、節税効果が得られるというのはむしろ逆に、損金算入として取り扱われる金額が増加し、実質的には株主優待の金券交付に要する以上の費用がかかるということになります(さらに留保金課税対象の会社では実質的な負担が大きくなります)。
なお、交際費の判断は、接待、供応、贈答等の行為のために「支出する費用」が交際費等の額とされていますので、自社上映館の映画招待入場券などを交付することによる特別に「支出する費用」が生じない場合には交際費等に該当しないという考え方が一般的とされています(「第4版 交際費課税のポイントと重要事例 Q&A」西巻 茂 著 )。