過年度損失の当期損金性と公正処理基準の関係
T&A master No.694の最新判決研究において「過年度損失の当期損金算入と公正処理基準との関係・更正の理由付記の程度」という記事が掲載されていました(東京高裁平成28年3月23日判決、東京地裁平成27年9月25日判決)。
この事案は、小型科目自動車運送業を営む有限会社X(原告、控訴人)が、平成21年3月期の法人税について、S社に対する過年度外注費(平成12年11月から平成13年10月分、約1000万円)を損金の額に算入して確定申告し、かつ、本件外注費にかかる仕入消費税額を税額控除して、平成21年3月課税期間の消費税の確定申告をしたところ、処分行政庁は、平成24年3月27日付で、平成21年3月分法人税につき、当該外注費は損金の額に算入できないとする更正を行ったものです(消費税も仕入税額控除を否定する更正あり)。
なお、この事案では更正の理由付記が適法であったのかについても争われましたが、こちらは省略します。
1.納税者Xの主張
X(納税者)は、法人税法22条4項に定める公正処理基準は、企業会計原則に定められた会計処理の基準はもちろん、企業会計上広く受け入れられている会計慣行を含む会計処理基準であると解されるところ、過年度の外注費として計上すべきところ、何らかの原因により外注費の計上漏れが生じた場合、前期損益修正項目として費用計上する処理についても企業会計上の会計慣行として広く受け入れられ確立していると主張しました。
そして、法人税法22条4項は、商事法令や商慣習として用いられている計算基準は、「別段の定め」として規定されている例外を除き、所得計算の原則的な通則の領域について適用されることを定めているとし、会計慣行として反復して実施されていれば、それが規範化してくるので、規範性をもつ会計処理の基準が法人税法上の所得計算における原則規定となるのであり、法人税法22条4項の規定は、会計慣行化している会計処理の基準があれば、それは法的基準として扱うということを定めた規定と解すべきであると主張しました。
上記の納税者主張については、そもそも中小企業で気にする会計基準ではないと思われるものの、「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」が公表されたのが平成21年12月4日(適用開始は平成23年4月1日以後開始事業年度)ですので、平成21年3月期当時の会計上の考え方としては、前期損益修正として処理するというのが一般的な会見慣行であったというのは一理あります(ただし、このようなケースであっても大企業においては税務の処理は別に対応していたと思われます)。
2.国の主張
国は、当該外注費は、Xが営む子がいた貨物自動車運送事業の収益を獲得するために直接要する費用であり、当該運送事業に係る売上原価に該当するものであるから、損金算入すべき時期は本件外注に係る役務の提供を受けた期間(平成12年11月から平成13年10月)と解すべきであり、Xが当該外注費に対応する役務影響を平成21年3月期に受けたという事実は認められないとしました。
その上で、事実誤認による単なる計上漏れに係る前期損益修正を、法人税法22条4項に定める「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」に該当するとして課税所得の計算を容認すると、発生主義及び費用収益対応の原則に基づき、発生した事業年度の費用及び損失として計上すべきものが、同時にその計上漏れが判明した事業年度に前期損益修正損として計上するのも正しいということになり、課税所得の計算に混乱を生じさせ、ひいては法人の恣意の介入する余地を生じさせることなり、同法の公平な所得計算という要請に反するとしました。
上記の国の主張は、一言で言えば単なる計上漏れのような前期損益修正損の損金算入を認めると課税所得の調整が容易に可能となってしまうので課税の公平を害するというものであるといえます。
3.裁判所の判断
地裁及び高裁は納税者の請求を棄却しました。納税者が主張する前期損益修正として処理することが企業会計上の慣行として広く受け入れられているから公正処理基準に該当するとする主張に対しては以下のとおり判断されています。
① 法人税法22条4項の趣旨に照らすと、企業会計の慣行として広く行われている処理であっても、適正な課税及び納税義務の履行の確保を目的とする同法の所得計算という要請に反する場合には、法人税法上採用することができないものというべきである。
② そして、企業会計においては、会計方針の変更や誤謬の発見などにより、翌期以後になってから過去の利益計算を修正した方がよいと考えられる場合でも、遡って決算をやり直すのではなく、前期損益修正として、過去の損益を特別損益項目に計上して処理することが慣行として広く行われてきたとしても(企業会計原則第二の六、同注解12参照)、このような企業会計上の慣行は、企業会計固有の問題に基づくものであると考えられる。
③ これに対し、ある事業年度に損金として算入すべきであったのにそれを失念し、それを後の事業年度に発見したという単なる計上漏れのような場合において、企業会計上行われている前期損益修正の処理を法人税法上も是認し、後の事業年度で計上することを認めると、本来計上すべきであった事業年度で計上することができるほか、計上漏れを発見した事業年度においても計上することが可能となり、同一の費用や損失を複数の事業年度において計上することができることになる。
④ また、法人税法上、修正申告や更正の制度があり、後に修正すべきことが発覚した場合、過去の事業年度に遡って修正することが予定されているのであって、企業会計上固有の問題に基づき行われているにすぎない前期損益修正の処理を、それが企業会計上広く行われているという理由だけで採用することはできない。
⑤ そうすると、単なる計上漏れのように、本来の事業年度で計上すべきであった損益を、後の事業年度において、前期損益修正として計上するような処理を公正処理基準に該当するものとして認めることはできないといわざるを得ない。
この事案において、なんで約10年もたって1000万円もの外注費の計上漏れに気づいたのかは明らかでありませんが、このようなものを認めたら課税所得の調整が自由にできるようになってしまいますので、上記のような判断は当然ということだと思われます。