採用内定後のインターンシップで能力不足が判明した場合、内定は取り消せるか?
労政時報のNo3932号に面白いQ&Aが掲載されていました。普通に考えると、インターンシップは採用内定に先行して実施されることが多いと思われますが、この質問者のケースは、入社前に実際の業務をより深く知ってもらう観点からインターンシップ(入社前研修)を行っているところ、「業務の処理能力が明らかに当社で勤務できる水準にない学生がいたため、内定の取り消しを検討しています」とのことです。
採用内定の取り消しに関する判例として、よく登場するのが大日本印刷事件で、この事案では「Xはグルーミー(陰気)な印象なので当初から不適格と思われたが、それを打ち消す材料が出るかも知れないという理由で採用内定としておいたところ、そのような材料が出なかったから採用内定を取消したというものであり、社会通念上相当として是認することができず、解約権の濫用にあたり内定取消は無効である。」という判断が下されています。
また、この判決では「採用内定の取り消し事由は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的で社会通念上相当として是認できるものに限られる」とも述べられています。
上記の質問のケースはこの判例と反対で、採用内定時には内定を出すくらいなので能力に問題はないと思っていたところ、実は違ったということが判明したとなっています。採用内定後に、思ったほど能力がないことが判明するというのは、ある意味通常の順序だと思われますが、能力が足りないことが採用内定当時知ることができなかったとして内容を取り消せるのかが問題となりますが、仮にこれが認められるとすれば、正式入社後に能力不足が発覚したという場合にも解雇はそれほど難しくないということになると思われます。
この質問に対する飛田弁護士の回答は「内定取り消しが無効となる可能性が高く、不法行為に基づく損害賠償責任を負うこともあり得る。内定段階で学生の能力について十分に調査を尽くすことが必要」というものとなっています。
上記の回答に関連して、入社前の研修と採用内定の取り消しを巡って争われた裁判であるアイガー事件(平成24年12月28日 東京地裁)が取り上げられていましたが、この判決では、入社前研修は使用者の業務命令に基づくものとはいえず、当該内定者の任意の同意に基づく研修にとどまるものであり、参加者の予期に反する不利益を伴うものであってはならないと示されています。
したがって、単純に内定を取り消すのは難しいと思いますが、会社側からすれば、そのまま入社させるのも気が引けるというのも理解できます。追加の研修等を実施しても会社が期待されるレベルに達する可能性が極めて低いと判断するのであれば、誠実に対象者と話し合い、希望に即した別の就職先を見つけるため補助をするなどを行うということは可能だと思われます。
売手市場になっているとはいえ、あせって内定を出すことがないように注意が必要です。