基準が公表されたら発行を中止する前提で有償ストック・オプションを発行
最近何度かとりあげている有償新株予約権ですが、「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い(案)」が新株予約権の割当日前に公表された場合には、新株予約権の発行を中止するという前提で適時開示を行う会社がでてきました。
最近1ヵ月の適時開示情報を確認してみると、有償ストック・オプション関連(発行・内容確定・行使)の開示を行った会社は全部で12社ありました。
このうち、割当日が未だ到来していないのは、以下の3社となっています。
1.株式会社ユニバーサルエンターテイメント(JQ) 2017年9月21日発行公表
2.サイバーステップ株式会社(東証M)2017年9月21日発行公表
3.大幸薬品株式会社(東一) 2017年9月15日発行公表
このうち、大幸薬品株式会社では、開示資料の冒頭に以下のとおり開示されています。
当社は、平成 29 年9月 15 日開催の当社取締役会において、会社法第 236 条、第 238 条及び第240 条の規定に基づき、当社の取締役、監査役及び従業員に対し、下記の通り新株予約権を発行すること及び平成 29 年5月 10 日に企業会計基準委員会が公表した実務対応報告公開草案第 52号「従業員等に対して権利確定条件付き有償新株予約権を付与する取引に関する取扱い(案)」(以下、「本公開草案」という。)に基づく実務対応報告が、新株予約権の割当日以前に公表された場合には、新株予約権の発行を中止することを決議致しましたので、お知らせ致します。なお、本件は新株予約権を引き受ける者に対して公正価格にて有償で発行するものであり、特に有利な条件ではないことから、株主総会の承認を得ることなく実施致します。
さらに、「Ⅲ.新株予約権の発行を中止する場合及びその理由」として以下のとおり開示されています。
本公開草案に基づく実務対応報告が本新株予約権の割当日以前に公表された場合には、当社における従来の会計処理と異なり、本新株予約権の公正な評価額から、本新株予約権の付与に伴う当社役社員からの払込金額を差し引いた金額のうち合理的な算定方法に基づき当期に発生したと認められる額を、費用として計上せざるを得なくなり、当社の業績に相応の影響があることから、株主利益等を考慮した当社役社員に対するインセンティブプランの再検討が必要となるためであります。
要は、仮に基準が公表されて、公開草案のとおりに会計処理が求められることとなると、PLインパクトが大きいので、発行は辞めますということです。ただし、同社の割当日は2017年10月3日となっており、反対コメントの多さから、そのまま公表されるとしても時間はかかるようですので、実質的に中止されることはないと考えられますが、この基準の影響の大きさが窺えます。
ちなみに同社よりも後に発行を公表した2社のうちサイバーステップ株式会社は、株価の下落により8月29日に発行を公表していたものを一度中止し、再度発行の適時開示を行っているというものになります。
もう1社の株式会社ユニバーサルエンターテイメントは、適時開示の冒頭に以下のように記載がなされています。
(前略)なお、本件は新株予約権を引き受ける者に対して公正価格にて有償で発行する者であり、特に有利な条件ではないことから、株主総会の承認を得ることなく実施いたします。また、本件新株予約権は付与対象者に対する報酬ではなく、各者の個別の投資判断に基づき引受けが行われるものであります。
同社の割当日は2017年10月6日であり、公開草案が正式に確定するよりも早いと思われますが、仮に基準が確定してしまうと「また、本件新株予約権は付与対象者に対する報酬ではなく」という部分は、基準の考え方と整合がとれなくなるので、果たしてどのように説明するのだろうかというのは見てみたい気もします。
そういった観点で、サイバーステップの記載をみてみると、こちらは「なお、本件は新株予約権を引き受ける者に対して公正価格にて有償で発行するものであり、特に有利な条件ではないことから、株主総会の承認を得ることなく実施いたします。また、当社監査役 3 名全員からは、本新株予約権の発行は、発行価額の条件等を総合的に判断した結果、有利発行に該当せず適法である旨の意見を得ております。」とだけ記載されており、報酬性については触れられていません。
両社の記載方法の違いが、基準が確定してしまったときの影響を考えたものからきているのか、参考にした事例やひな形が異なるだけなのかはわかりませんが、個人的には株式会社ユニバーサルエンターテイメントの記載は避けたほうがよいのではないかと思います