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平成29年度税制改正後も1円ストックオプションは損金算入OKとありましたが・・・

税務通信3481号の税務の動向に「H29改正後も1円SOは「退職給与」として損金算入OK」という記事が掲載されていました。

この記事は、「29年度の法人税法の改正により、役員退職給与やストックオプション(新株予約権・SO)を損金算入するためのハードルが上がったところ、これら改正が1円ストックオプションの損金算入の可否に影響するのではないかと考える向きも多いようだ」ということから、株式会社伊藤園が平成16年に東京国税局に対して行った照会事例を参考に、1円ストックオプションの税務上の取扱いを確認しているものとなっています。

結論としては「文書回答事例を参考に設計された1円ストックオプションであれば、29年度改正後も、 法人税法34条 1項括弧書の「退職給与」に該当し、さらに、「特定新株予約権」にも該当するため,権利行使日の属する事業年度に損金算入することができる」となっています。

上記の記事では、平成29年度税制改正によって、「退職給与」のうち「業績連動型の退職給与」については、業績連動給与の損金算入要件を充足しなければ損金不算入とされたものの、「同文書回答事例の1円ストックオプションは、業績に連動して権利行使できる数等が変動する類型ではないため、「業績連動型の退職給与」には該当せず、「退職給与」として原則損金算入が認められる。」と解説されています。

記事のタイトルや見出しをさらっと流し読みしてしまうと、1円ストックオプションは損金算入できるとインプットしてしまいそうですが、上記の取扱いはすべて伊藤園の「文書回答事例」と同じ類型の1円ストックオプションであることが前提となっているので、前提が異なれば当然取扱が異なる可能性があるということになります。

ここで伊藤園の文書回答事例の内容を国税庁のサイトで確認すると、事前照会に係る取引等の事実関係は以下のように記載されています。

当社及び当社の100%子会社である伊藤園産業株式会社及び株式会社沖縄伊藤園(以下「子会社」という。)は、平成14年8月より役員退職慰労金の新規積立を停止しておりましたが、平成16年9月をもちまして役員退職慰労金制度を廃止しました。
これに伴い、役員退職慰労金の過去積立未精算分につきましては、金銭での支給は行わず、当社及び当社子会社の役員(以下「対象者」という。)に対して、当社の普通株式を付与する「本件新株予約権を無償で付与する議案」を平成16年7月28日開催の当社定時株主総会に付議し、商法第280条の21第1項(特に有利な条件による新株予約権の発行)に定める特別決議を得ております。
更に平成16年8月27日開催の当社取締役会において、本件新株予約権の発行に関する取締役会決議を得て、平成16年9月1日に本件新株予約権を発行いたしました。
本件新株予約権は、権利行使時の権利行使価額を1株当たり1円とし、その権利行使期間は、発行日から30年以内において、役員を退任したときに、退任した日の翌日から10日を経過する日までの間に限り、一括して権利行使しなければならないことになっております。
本件新株予約権には、取締役会の承認を要する旨(商法第280条の20第2項第8号)の譲渡制限を定めるとともに、更に当社と対象者との間で締結した本件新株予約権割当契約書第8条において、本件新株予約権の譲渡を禁止する旨の条項を定めております。

上記では、特に業績によって行使可能な株数が変動するというような条件はありませんので、これと同様の類型であれば「業績連動型の退職給与」には該当しないということになるにすぎないものと考えられます。

例えば昨日、株式会社TKCが「ストックオプション(新株予約権)の発行に関するお知らせ」という適時開示を行いましたが、このストックオプションの行使条件は以下のとおりで、国税庁の文書回答事例にあるものと同様の類型であると考えられます。

8.新株予約権の行使の条件
①新株予約権者は、当社の取締役及び監査役の地位又は使用人の地位を喪失した日の翌日から10日間以内(10日目が休日に当たる場合には翌営業日)に限り、新株予約権を行使することができる。但し、当社の取締役及び監査役の地位並びに使用人の地位を喪失した者が、その地位を喪失した日から10日以内に当社の取締役に就任し、若しくは当社の商業使用人となる場合は、その者は新株予約権を行使することができないものとする。
②上記①にかかわらず、当社が消滅会社となる合併契約承認の議案、当社が分割会社となる分割契約若しくは分割計画承認の議案、当社が完全子会社となる株式交換契約若しくは株式移転計画承認の議案につき、当社株主総会で承認された場合(株主総会決議が不要の場合は、当社取締役会決議がなされた場合)、当該承認日の翌日から30日間に限り新株予約権を行使できるものとする。ただし、第12項に定める組織再編行為に伴う新株予約権の交付に関する事項に従って新株予約権者に再編対象会社の新株予約権が交付される場合を除くものとする。
③その他の条件については、当社と新株予約権者との間で締結する「新株予約権割当契約」に定めるところによる。

一方で、例えば資生堂も2017年2月23日の「ストックオプション(新株予約権)の付与に関するお知らせ」で1円ストックオプションを付与することが公表されていますが、同社の場合は本件ストックオプションの業績条件として、以下のように記載がなされています。

本件ストックオプションでは、ストックオプションとしての新株予約権の割当ての時と、割当てた新株予約権の権利行使期間の開始時の二つのタイミングで業績条件を課しています。
まず、株主総会において割当て上限個数の承認を得た後、実際に新株予約権を割当てる際に、直前事業年度に係る年次賞与の評価指標を用い、0 個から上限個数までの範囲内で付与個数の増減を行います。
さらに、当該新株予約権の行使期間が開始する際に、その直前事業年度までの連結業績等の実績に応じて、割当てられた新株予約権の 30%~100%の範囲で権利行使可能な個数が確定する仕組みとしています。これにより、中長期的な業績向上と戦略目標達成へのインセンティブを強化しています。

資生堂のようなケースでは、「業績に連動して権利行使できる数等が変動する類型ではない」とはいえないと考えられますので、文書回答事例と同様に考えることはできないということになると考えられます。

損金算入できるかできないかで税金分の影響がそれなりに大きくなることが想定されますので、設計時に損金算入の可否の判断は慎重に行いましょう。

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