役員給与過大認定の審判所の着眼点とは?
T&A master No.711の特集で役員給与の過大認定を巡って争われた事案が紹介されていました。今年2月にも沖縄の泡盛酒造会社で同様の事案が争われていますが(東京高裁判決)、転ばぬ先の杖として審判所の判断基準などを確認してみることとします。
今回紹介されていた事案の納税者は自動車販売業等を営む法人で、主として海外の自動車販売業者向けに自動車の輸出を行っていた会社とされています。年商規模や会社の規模は不明(使用人平均給与として9名~12名というものが用いられていることからすると従業員数としてはそれほど多くないものと推測されます)ですが、原処分庁が納税者の同業類似9社を抽出する際に用いた基準は以下の5つとのことです。
- 日本標準産業分類項目が「小分類542ー自動車卸業」に該当すること
- 原処分庁管轄区域内及びこれと隣接する6署の管轄区域内に納税者を有すること
- 納税者の本件各事業年度の売上金額を基準として、本件各事業年度の終了の日前後6ヵ月以内に終了する各事業年度の売上金額が2分の1以上2倍以下(いわゆる倍率基準)の範囲内に含まれること
- 各事業年度の中途で設立又は決算期変更をしていないこと
- 更正処分などがされている法人のうち訴訟が係属しているものではないこと
上記の基準に抽出された同業類似9社の代表取締役に対する役員給与の最高額は各年度において以下のとおりとされています。
平成23年7月期 88,300千円(D社)
平成24年7月期 82,950千円(D社)
平成25年7月期 92,450千円(D社)
平成26年7月期 60,000千円(H社)
平成27年7月期 60,000千円(H社)
原処分庁は上記の金額を超える金額を扶桑法に高額な部分として損金として算入されないとして課税所分をおこなったとのことです。これに対して納税者は、以下の点から不相当に高額な部分はないと主張したとされています。
- 代表者の職務内容は広告宣伝、オークションでの落札の指示、クライアントとの関係の構築、注文の取得、クレーム対応、支払催促など納税者の事業全般にわたるものであるから一般に想定される範囲を超えるものであることは明らかであり、同業類似9社の最高額と比較することはできない
- 平成21年及び平成22年7月期の平均値と比較して、平成23年~平成27年の売上総利益が横ばいにあることや改定営業利益の額が増加傾向にあることから、平成21年及び平成22年7月期の代表者に対する役員給与の平均額は128,000千円を下回るものではない
- 平成26年及び平成27年7月期の代表者の職務内容は大きな変動がなく、利益も横ばいで推移していることから大幅に減額させる合理的な理由はない
審判所は、まず類似会社の抽出基準については、前述の基準を合理的と認めたとのことです。一方で、抽出された9社のうち平成26年及び平成27年7月期の最高額となっているH社について、自動車用品の小売業を営む法人と認定し、納税者とは類似性を有するとは認められないとして類似会社から除外すると判断しました。
また、代表者の職務内容については一般的に想定できる範囲のものとして、特別に高額な役員給与を支給するほどの職務であるとまでは評価し難いという判断を下しました。さらに、役員給与のみが平成22年7月期と比較して高い伸び率(2.3倍から4.3倍)となっているが、利益水準や使用人に対する平均支給額が概ね一定であることから、類似法人の役員給与の額を超えるものになるとは認め難いとし、類似会社で役員給与支給額の最高額となっているD社は当該会社と比較して相当に経営状態が良好と評価することができると判断したとのことです。
平成22年7月期と比較して高い伸び率(2.3倍から4.3倍)と、平成21年及び平成22年7月期の代表者に対する役員給与の平均額は128,000千円という部分からすると、当該代表者の役員給与の水準はおよそ3億円~5.5億円となっていたと計算されます。
納税者の側からすれば、類似企業の最高額を把握できない中で、類似企業の最高額を超えたらアウトということになってしまうと厳しいところがありますが、一般的な感覚として約1.3億円と約3億円~5.5億円では大きく捉えられ方も異なるというのは理解でき、類似会社の最高額との開きをみてもここまでになってしまうと不相当に高額といわれても仕方ないかなという気はします。
審判所は、平成26年及び平成27年7月期について、処分庁が抽出したH社を除外したことにより平成26年及び平成27年7月期についても平成25年7月期の最高額(92,450千円)を不相応に高額な基準となる最高額として、課税処分庁が60,000千円を最高額として下した課税所分の一部取り消したとされています。
比較的規模の大きい非上場企業のオーナーが上場企業の雇われ社長よりも高い報酬を得ているということは比較的みられることだと思いますが、とはいえ、上場企業の役員であれば1億円以上の報酬は個別開示対象となり、人数としてはそれほど多くないことからすれば、1億円程度というのは1つの目安になるのではないかと思います。