四半期報告書の提出期限の延長を申請していたメタップスが四半期報告書を提出
韓国で実行されたICOの会計処理方法などについて監査法人との協議に時間がかかるとして、四半期報告書の提出期限の延長を申請していたメタップスが2018年2月14日に8月期の第1四半期報告書を提出しました。
同社は2018年1月15日に短信を公表していますが、経営財務3348号「ICO会計処理 一部は四半期末の時価評価に変更」でまとめられていた内容によれば、短信と四半期報告書では以下の点で会計処理が修正されているとのことです。
①顧客から預かっている仮想通貨の処理
短信では簿外処理でしたが、四半期報告書では、「四半期末時点に時価評価を行い、棚卸資産として計上。同額をその他流動負債に計上」となっています。
同社の開示資料によれば、現在の韓国の法整備状況の下では、顧客資産の倒産隔離が未整備であり顧客への返還義務が存在すること、預かり仮想通貨は、同社の保有している仮想通貨と同様に保管されていることを勘案し、公正価値569百万円で棚卸資産およびその他流動負債として計上したとのことです。
②自社保有の仮想通貨
メタップスの韓国子会社が設立した仮想通貨取引所(CoinRoom)が保有する仮想通貨について、短信では取得原価で無形資産または棚卸資産として計上とされていましたが、四半期報告書では、「四半期末時点に時価評価を行い、棚卸資産として計上。取得原価との差額を損益(売上高)として計上」という処理に変更されています。
四半期報告書では公正価値で評価し、評価益41百万円を損益(売上)として計上しているとのことですが、短信では「棚卸資産」が独立項目としては存在しなかったので、「その他流動資産」に含まれていたのではないかと思われます。
短信と四半期報告書の「その他流動資産」の差が94百万円(現象)で、上記評価益41百万円なので棚卸資産として計上されたのは135百万円程度ということになるのではないかと思われます。これに①の569百万円を加算すると704百万円となります。BS計上額の715百万円とは少し違いますが、概ねこんな感じの動きなのではないかと思われます。
③トークン販売で受領した対価
短信では全額を前受金として計上するとされていましたが、四半期報告書では繰延収益として計上することとされています。いずれも負債として計上するという点では同じですが、勘定科目が異なっています。
繰延収益として計上した後の処理については、「PLC 販売に関する収益認識の方法及びタイミングにつきましては、引き続き協議中」とされており、まだ検討中の段階にあるトのことです。2Qには何らかの結論がでているものと考えられます。
メタップスの第1四半期報告書では、事業とのリスクとして「⑲仮想通貨取引に係るリスク」という結構長いリスク項目が追加されています。直近では、TVCMをこれでもかというくらい流していたコインチェックの事件が記憶に新しいですが、上記リスクの一項目として「サイバー攻撃による仮想通貨の喪失」についても触れられています。
第1四半期のレビュー報告書もなかなか見ることがないボリュームとなっており、強調事項5つ、その他の事項が4つで、本体部分をはるかに上回るボリュームの記載が加えられています(紙の原本は3枚くらいになりそうな感じです)。
その他の事項には、監査法人も苦しんだということを窺わせる内容が記載されています。一部をピックアップします。
「将来、会社の仮想通貨に関する事業拡大により仮想通貨取引が増加し、会計処理が複雑になると、仮想通貨取引の発生並びに仮想通貨残高の実在性及び所有に関して、十分かつ適切な証拠を適時に入手することが難しくなる可能性がある。」
「当監査法人は、会社が所有していると主張する公開アドレス間において、会社が仮想通貨を移動させることが可能であることを観察できたが、会社が当該秘密鍵の所有者であること、つまり、当該公開アドレスで保有されている仮想通貨の所有者であることの直接的な検証はできていない。これは、ブロックチェーン取引の固有の性質や、会社が現状構築している秘密鍵の初期生成及び保全に関するセキュリティに係るプロセスや内部統制に起因している。秘密鍵の初期生成及び保全に係る、より有効な統制が整備されれば、統制評価手続を実施して関連する他の手続と組み合わせることで、仮想通貨取引の発生並びに仮想通貨残高の実在性及び所有に関する十分な証拠を得ることが可能となる。」
「当監査法人の利用したオープンソース・ツールは、当該目的に照らして一般的に信頼できるものであるが、当該ツールの信頼性を評価するために実施できる手続は、会社が独自に開発したツールの信頼性を評価するために実施できる手続よりも限定されている。」
上記のような点を踏まえると、ちょっとしたことで、意見が出ないあるいは出るのが遅れるということが起こりうるのではないかと思えてなりませんが、あえてチャレンジしているメタップスは面白い会社だなと思います。