仮想通貨で給与を支払うことの問題点とは?
2018年5月号のビジネスガイドに木下達彦弁護士による「仮想通貨で給与を支払うことの問題点は?」という記事が掲載されていました。
仮想通貨の利用が拡大してきているとはいえ、価値変動の激しい仮想通貨で給与を支払うというところまでいくのはまだ先かなと思っていましたが、この記事によれば、既にGMOインターネットグループでは、昨年12月に「仮想通貨分野への取組みの本格化に伴い、まずは従業員が積極的に仮想通貨に触れることが不可欠として、本人の希望(申込み)により、給与の手取り支給額の一部をビットコインで受け取れる制度を導入していることを発表」しているとのことでした。
GMOインターネットグループのサイトを検索すると、確かに「GMOインターネットグループ給与の一部をビットコインで受け取れる制度を導入」というプレスリリースがなされていました。
GMOグループでは、事業上の目的から給与の一部を本人の希望により仮想通貨で支給するという制度を導入したとのことですが、この記事では、仮想通貨で給与を支払うことのメリットとして、海外送金の手数料が銀行等を通じた送金よりも安いという点があげられており、一般事業会社で普及するとすればグローバル企業からであろうと述べられています。
さて、本題の給与を仮想通貨で支払うことの問題ですが、仮想通貨での給与の支払いは通貨払いの原則(労基法24条1項)に違反しないかについて、検討がなされています。
まず、仮想通貨は「通貨払いの原則」でいうところの「通貨」なのかですが、結論としては、仮想通貨は労基法24条1項本文の「通貨」には該当しないとされています。では、労基法24条1項本文の「通貨」とは何かですが、”日本国において「強制通用力のある貨幣と日本銀行券」を意味します(通貨の単位及び貨幣の発行に関する法律2条3項、7条、日本銀行法46条1項・2項)”とされています。
そうだとすると、そもそも「通貨」でないから問題だということになりそうですが、多くの会社では給与の支払いが銀行振込で行われているように、通貨払いの原則にも例外が設けられていますので、それらの例外に該当するのかという点で検討がなされています。
労基法上、通貨払いの原則の例外としては、法令もしくは労働協約に別段の定めがある場合、厚生労働省令で定める賃金について確実な支払いの方法で厚生労働省令が定める場合があり、銀行振込については、労働基準法施行規則7条の2によって、労働者の同意を条件に認められています。
一方、仮想通貨については、法令や厚生労働省令で例外が定めれていませんので、通貨払いの例外が認められるとすれば、労働協約で別段の定めがある場合ということになります。
ここで、注意すべきは労働組合との「労働協約」が必要で、過半数代表者との労使協定では足りないという点です。GMOグループって労働組合あるの?と意外だったので、有価証券報告者を確認してみると、GMOインターネット株式会社に労働組合は存在しませんでした。
では、なぜGMOインターネットグループのような制度は可能なのかですが、労働者の自由意志による合意があれば、例外が認められる余地があるためです。上記の記事では、全額払いの最高裁平成2年11月26日判決は、通貨払いの原則にも基本的に同様の趣旨が妥当するとして、労働者が自由な意思に基づいて合意されたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在する場合には通貨払いの原則に反しないとしたリーマン・ブラザーズ証券会社事件(東京地裁平成24年4月10日判決労判1055号8頁)を取り上げ、そのような条件が満たされるのであれば、通貨払いの原則として認められる可能性が出てくるとされています。
ただし、上記判例で認定された事実からすると、「労働者の交渉力が対等以上であり、現金払いの金額も巨額であるという特殊な事例といえますので、これを交渉力の小さい通常の労働者に適用できるのかという疑問、また、現金払いの額が小さく、労働者の生活が仮想通貨の相場の変動に大きく影響を受ける場合にも適用するのが妥当かという疑問」、また、全額払いの原則は過半数代表者との労使協定による例外を認める点で通貨払いの原則よりも例外を緩やかに認めている規範であることからの疑問もあるとし、「一般的に労働者の合意による仮想通貨の支払いが可能になったと即断するのは危険」と述べられています。
なお、GMOインターネットグループの制度に問題があるのかについては、明確には述べられていませんが、仮想通貨を労働者の同意により支給する場合に考慮すべき要素として、以下の4つがあげられています。
①交渉力の格差の程度
②現金給与と仮想通貨の割合
③現金給与の総額
④仮想通貨を支給することとした目的と労働者に対するメリット
GMOインターネットグループの制度は、本人の希望により1万円から10万円の範囲でビットコインでの受け取りが選択可能となっているもので、従業員持株会のように奨励金が10%加算されるというメリットがあり、事業目的から導入されている制度であるという点を踏まえると、問題はないといえるのではないかと思います。
給与を仮想通貨で支払うのが一般化するところまでいくのかは不明ですが、労働法上無条件で問題がないわけではないという点は覚えておくとよいかもしれません。