取締役の就任に委任契約の締結は必要か
会社法上、会社と役員との関係は委任に関する規定に従う(会社法330条)とされており、会社と役員との関係が委任関係にあるという点については広く理解されていることと思います。
では、取締役を新たに選任する場合に、取締役との間で委任契約を締結する必要があるのだろうかというのが今回のテーマです。いままで、会社と取締役との委任契約書の現物を目にしたことはありませんが、自分が見たことがないだけで一般的には作られているのかと不安になったので確認してみました。
過去の判例により、株主総会で取締役に選任された者が取締役に就任するためには、本人の同意が必要であることは確認されていますが、「被選任者と会社の間で、明示または黙示に委任契約を締結する必要があるかどうか議論がある」とのことです(「取締役・執行役ハンドブック」第2版 中村直人 編著 P21)。
上記では、「選任決議だけで一方的に取締役に就任してしまうと解するのも問題であるが、契約が必要であるとすると、その契約の締結で会社を代表する者は誰であるのか、現実にそのような契約の契約締結の申込みがなされるのかが問題となる。実務的には就任の同意があれば、それで就任したものと考えている。その就任の同意は通常事前に得ている。」とされています。
就任の同意があれば取締役に就任し、会社との関係は委任に関する規定に従うというのは分かりますが、結局のところ委任契約が必要なのかどうかについては上記からははっきりしません。
もう少し調べてみると、葉玉匡美氏の「会社法であそぼ。」の「就任契約の性質」という頁に以下のように記載されていました。
以上のような就任契約の性質を考えると、会社と取締役は、「委任契約」を締結するのではなく、「取締役に就任する旨の契約」という会社法が定めた定型的な契約を締結し、その契約について委任の規定が適用されると解するのが、理論的にすっきりします。
「以上のような就任契約の性質」について詳しくは上記のサイトをご確認頂きたいのですが、要約すると、民法では契約自由の原則があるので、典型契約として民法に規定されている委任契約も、本来であれば規定のほとんどは特約で排除できるはずのところ、当該契約によって取締役の任期を会社法で定める上限年数以上としたり、欠格事由を排除したりすることは認められず、会社法の強行規定により、契約内容がことごとく制限されることなどからすると上記のように考えられるのではないかということとまとめられるのではないかと思います。
取締役の就任同意書は取得していることが多いと思われますので、上記のように考えると、この同意書の取得をもって、基本的に会社と取締役の契約が成立すると考えてよさそうです。とはいえ、各人別に取締役の報酬が総会で決議されることは稀で、一定の限度額の中で実際の報酬額の決定が代表取締役に一任されていたりすることはあるので、社外取締役として取締役を選任するような場合(就任するような場合)には、報酬等の各種条件について、別途契約(覚書)などを締結しておく意義はあると思われます。
結論としては、取締役と委任契約を締結するのは、あまり一般的ではないということでよさそうです。