有報と事業報告記載の一体化に向けた留意点(その2)
前回の続きです。ASBJの「有価証券報告書の開示に関する事項 -『一体的開示をより行いやすくするための環境整備に向けた対応について』を踏まえた取組-」において記載の共通化に向けた留意点として取り上げられている15項目の残りについて確認していきます。あと10項目なので今回でも終わらない可能性が高いですが・・・
6.「経営上の重要な契約等」/「事業の譲渡」等(開示府令第三号様式記載上の注意(14)/施行規則第120条第1項第5号ハからへまで)
この点については、作成にあたってのポイントとして以下のように記載されています。
事業の譲渡等について業務執行を決定する機関における決定があったときは、当該事業の譲渡等について事業報告の内容に含めなければならず、有価証券報告書の記載と事業報告の内容との間で開示の要否について相違はないと考えられます。
有価証券報告書では「記載上の注意」に記載されている「吸収合併の目的、条件・引継資産・負債の状況」などを記載することになりますが、施行規則第120条では「状況」について記載が求められているのみなので、事業報告ではさらりとした記載とすることも特に問題ないと考えられます。
むしろ会社としては、有報と同様の記載をしてはいけないと考えてるということはなく、分量も増えるし面倒なので記載を簡略化しているというのが実態だと思われます。記載を共通化することで、事務上の手間が省けるという側面は否定しませんが、作成実務担当としてはそもそも、目的は違うとはいえ有価証券報告書と事業報告に同じ内容の記載をするのは馬鹿らしいと感じていますので、記載の共通化よりも一本化が期待されます。
7.「主要な設備の状況」/「主要な営業所及び工場」の状況(開示府令第三号様式記載上の注意(18)/施行規則第120条第1項第2号)
ここでは、三つのポイントが記載されていますが、うち二つはあえて取り上げるまでもなさそうなので、一つ目のポイントのみ確認します。
事業報告について「主要な営業所及び工場」の状況をその内容とすることが求められているのは、会社が事業を行うための物的施設の状況を明らかにするためであり、その趣旨は、投資目的の観点から設備の状況に着眼した、有価証券報告書の「主要な設備の状況」の記載の趣旨と相違はないものと考えられます。そのため、有価証券報告書における「主要な設備の状況」の記載には、事業報告における「主要な営業所及び工場」の状況の内容を含めることができると考えられます。なお、主要な営業拠点(支店、営業所等)を一括して記載する場合には、欄外にその内容を記載することが考えられます。
そして、以下の記載例が示されています。
(ASBJ 有価証券報告書の開示に関する事項 -『一体的開示をより行いやすくするための環境整備に向けた対応について』を踏まえた取組-より)
有価証券報告書の「主要な設備の状況」において、営業所や支店の記載をしている事例も多いと思いますが、上記の記載例で示されているような「各営業所」というような一括して記載している事例はみた記憶はありません。むしろ、固定資産の帳簿価額が僅少であっても、各拠点毎に記載している事例のほうがよく見かけると思います。
事業報告に帳簿価額なども同様に記載するかは、やはり疑問ではありますが、有価証券報告書の作成上、上記の記載例のように各営業所とか各支店としてまとめた記載として、脚注を付すという方法を採用する検討の余地は十分あるのではないかと思います。
8.「ストックオプション制度の内容」/「新株予約権等に関する事項」(開示府令第三号様式記載上の注意(19)/施行規則第123条第1号)
これは、有価証券報告書における【ストックオプション制度の内容】を記載する際に、事業報告で求められる記載区分(取締役(社外役員を除く)・社外取締役(社外役員に限る。)・取締役以外の会社役員)に従って記載することで、事業報告の「新株予約権等に関する事項」と記載の共通化を図ることができるというものです。
また、有価証券報告書の「ストックオプション制度の内容」における付与対象者の人数(有価証券報告書は付与時点)について、事業報告で求められる事業年度末時点の人数を括弧書き等で付記することで記載の共通化を図ることができると考えられるとされています。
有価証券報告書上、事業報告で求められる区分で役員を区分して記載し、役員についてのみ括弧書きで事業年度末の人数を記載するというものです。
役員保有の新株予約権については、事業報告では事業年度末時点での「目的となる株式の種類及び数」、「個数」なども記載されることが通常だと思われますが、有価証券報告書において、18年3月で改正された方式を採用し事業年度末現在と提出日前月末現在の記載を一列にまとめて括弧書きで対応するというような記載とした場合は、二種類の括弧で対応するということになるのではないかと思われます。
9.「大株主の状況」/「上位十名の株主に関する事項」(開示府令第三号様式記載上の注意(25)/施行規則第122条第1項第1号及び第2項)
作成にあたってのポイントして、以下の三点が挙げられています。
有価証券報告書における「大株主の状況」の記載(10名以上の大株主について記載した場合に限る。)により、原則的には、事業報告の上位10名の株主に関する事項の内容を満たすことができると考えられます。
種類株式発行会社の場合には、上位10名の株主それぞれについて、保有株式の種類及び当該種類ごとの数を注記することで、記載を共通化することができると考えられます。
「所有株式数」が、株主名簿における保有株式数(種類株式発行会社の場合には、議決権を有していない株式を含む全ての種類株式の発行済株式の総数。以下同じ。)と異なっているときは、株主名簿における保有株式数による記載を付記することで、事業報告の内容を満たすことができると考えられます。
結論としては、有報と同様の記載を使って問題ないということのようですが、個人株主が上位にいる場合には、市区町村までであり、いずれにしても有報で開示されるとはいえ、あえて事業報告に住所を記載するかというのは検討したほうがよいと思います。
なかなか進みませんが今回はここまでとします。