法人決算業務契約の途中終了での報酬額訴訟で税理士が勝訴
T&A master No.732に「法人決算業務契約の途中終了で報酬額は」という記事が掲載されていました。
この事案は、税理士が関与法人に対して、途中で終了した法人決算業務契約に係る未払報酬を請求したもので、東京地裁は、途中終了の帰責事由が税理士にないと判断したうえで、民法648条3項により法人決算業務の履行割合に応じて報酬を請求することができると判断したとのことです(平成29年2月22日判決)。
記事によると、この税理士は、月額顧問料(金額不明)のほか、別途決算業務の報酬を受け取っていたとされています(平成17年から24年まで50万円から60万円程度で推移)。
決算業務が途中で終了となった平成26年は、「売上関係(計上漏れの確認・消費税課税判定等)、預り金関係(納付状況や計上漏れの確認等)を遂行することにより485時間を費やし、残りの業務(決算書及び申告書の作成等)を遂行するのに必要な時間は10時間程度」であったとされています。
月額の顧問料が不明ですが、485時間に対して請求額が約58万円とされており、(すぐに単価けいさんするのもどうかとは思いつつも)時給換算すると時給1200円程度となります。そう考えると485時間が本当かなという気はしますが、残り10時間の作業がのこったのは、関与先法人からの連絡が途絶え、決算業務を途中で終了せざるを得なくなったためと、当該税理士は主張したとのことです。
これに対し裁判所は、①当事者は煩雑度や難易度を総合的に勘案して決算業務報酬額等を合意していたこと、②問題となった年度の作業の98%程度を遂行済みであり、請求額は遂行した業務に対応する範囲であること、③過去の決算業務報酬額は50万円から60万円程度で推移しており、関与先法人は税理士の請求に応じて支払いを行っていたことを認定のうえ、関与先法人が税理士が入金を求めるメールに返信しておらず、報酬の支払いも認められないことから、税理士が決算業務を途中終了したことに帰責性はないと判断したとされています。
最後の10時間分の作業が遂行不能だったのか、入金がなかったので作業を止めたのかが、記事の内容からははっきりしませんが、民法648条3項では以下とおり、履行分の報酬を請求するには「委任が受任者の責めに帰することができない事由によって履行の中途で終了したとき」という要件が必要となるため、既にかかった時間が莫大で、残りわずかで終了するということであれば、終了させたほうが請求は認められやすいとも考えられますので、慎重な対応が必要と考えられます。
回収が疑わしいときは、入金があるまで作業を止めるということは、何も考えずにやってしまいそうなので、自分も注意しなければと思いました。
(受任者の報酬)
第648条
1.受任者は、特約がなければ、委任者に対して報酬を請求することができない。
2.受任者は、報酬を受けるべき場合には、委任事務を履行した後でなければ、これを請求することができない。ただし、期間によって報酬を定めたときは、第624条第2項の規定を準用する。
3.委任が受任者の責めに帰することができない事由によって履行の中途で終了したときは、受任者は、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる。