収益認識に関する会計基準と法人税法上の取扱い(その1)
”平成30年度税制改正を確認-法人税(その1)”で「益金算入額・益金算入時期の明確化」について書きましたが、T&A master No.736に「収益認識会計基準と法人税法上の取扱い」として、「収益認識に関する会計基準」(以下、「収益認識会計基準」)で定められている項目と法人税法上の取扱いについて解説されていたので、前回取り上げなかった部分を中心に確認します。
1.契約の結合
従来は、工事契約など一部を除いて、契約の結合について一般的な定めはありませんでしたが、収益認識会計基準では、同一の顧客(当該顧客の関連当事者を含む。)と同時又はほぼ同時に締結した複数の契約について、一定の要件を満たす場合は、単一の契約として処理することとされています(基準第27項)。
複数の契約を結合して収益認識をする場合は、結合した契約全体から履行義務を識別し、結合した契約全体の取引価格を識別した履行義務に配分し、それぞれの履行義務ごとに収益を認識することとなります。
結合された全体の取引価格は、合理的に各履行義務に配分されるのが前提ではありますが、それにしても、法的に有効な各契約書の単位を飛び越えて会計上は収益認識を行うこととなるわけです。
このような会計基準に対して、「法基通の取扱いの方向」として、上記の記事では以下のように記載されています。
法基通でも会計基準の取扱いが認められる方向である。具体的には、複数の契約において約束した取引を結合して初めて単一の履行義務となる場合には、その結合した単位を収益計上の単位とすることができるとされる。
上記の具体例の書き方からすると、複数の契約を結合して複数の履行義務が識別された場合も認められるのかが明確ではありませんが、資産の販売等に係る収益の額を実質的な取引の単位に区分して計上して収益認識を行った場合には法人税法上も益金として認めるというのが基本的な税制改正の考え方とされていますので、おそらく複数対複数でも同様に認められることとなるのだと推測されます。
2.履行義務の充足と収益認識
収益認識会計基準では、財又はサービスに対する支配が顧客に一定の期間にわたり移転することとなる要件に該当する場合には、顧客に移転することにより履行義務を充足するにつれて、一定の期間にわたり収益を認識するとされています(会計基準38項等)。
そして、履行義務が一定の期間にわたり充足されるものではない場合には、一時点で充足される履行義務として収益を認識することとされています(会計基準第39項)。なお、日本基準においては、いわゆる出荷基準について、原則的な考え方とは別に代替的取扱いが認めれられています。すなわち、国内の販売において出荷時かた商品又は製品の支配が顧客に移転されるまでの期間が通常の期間である場合には、出荷時点等に収益を認識することが認められています(適用指針98項)。
これらに対して、上記の記事では「法基通の取扱いの方向」として以下のように記載されています。
法基通でも会計基準の取扱いが認められる方向である。具体的には、提供した役務につき通常得べき対価の額に相当する金額について一定の期間にわたり充足される履行義務であれば、各事業年度の進捗度に応じて益金に算入される。また、請負については、進捗度に応じた経理を行っていない場合には、引き続き引渡し等の日の属する事業年度において一括して益金算入を可能とする。
したがって、会計と税務で差は生じないということになります。
一時点で充足される履行義務については、前回記載した内容は省略しますが、「仕切精算書到達日、検針日、航海完了日等において収益経理している場合には、これらの日に属する事業年度で益金算入することも認められていることを踏まえ、これらの日について引渡し等の日に近接する日として位置づけられる方向である」とされています。
収益認識会計基準の制定にあたっては、電気事業やガス事業において検針日基準を代替的取扱いとして認めるかが議論されたとのことですが、最終的に検針日基準について代替的取扱いは認められませんでしたが、法人税法上は検針日基準で収益認識していても、引渡し等の日に近接する日(法法22の2②)として位置づけられることとなるようです。
3.ポイント制度の取扱い
ポイント制度については、従来の会計実務としてはポイント引当金を計上することが多いと思いますが、収益認識会計基準では、ポイントが重要な権利を顧客に提供すると判断される場合には、引当金計上は認められず、別の履行義務としてして識別し収益が繰り延べられることとなります。
このポイントの取扱いについては以下のように述べられています。
法基通でも会計基準の取扱いが認められている方向である。具体的には、①自己発行ポイント等の付与が当初の資産の販売等の契約を締結しなければ相手方が受け取れない重要な権利を与えるものであること、②その付与した自己発行ポイント等の呈示ががあった場合に値引き等をする金額が明らかにされており、かつ、たとえ1ポイントの呈示があっても値引き等をすることとしていること、③その付与した自己発行ポイント等が発行年度ごとに区分して管理されていること、④規約その他の契約において法人がその付与したその付与した自己発行ポイント等に関する権利につき有効期限を徒過したことこと以外の理由により一方的に失わせることができないこととされていることの要件を全て満たす場合には、継続適用を条件として、前受金として計上するができる方向である(他社発行のポイントは対象外)。前受金とされた自己発行ポイント等については、原則としてその使用に応じて益金に算入されることになる。
ポイントについても、収益認識会計基準での収益認識はそれほど単純ではありませんが、「法基通でも会計基準の取扱いが認められている方向」とされていますので、会計上の見積りを容認して益金として認められることとなるようです。
長くなりましたので今回はここまでとします。