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粉飾決算と内部統制システムの構築義務違反の責任

T&A master No.752に「粉飾決算と代表取締役の責任で内部統制システムが問題に」という記事が掲載されていました。これは、株式会社リソー教育の過去の粉飾決算に関連して当時の同社の株主が提起していた株主代表訴訟に関するものです。

「リソー教育における粉飾は、大きく分けて2度に及ぶ」とされ、1度目の粉飾が、「次期実施予定の授業の売上を先取りすることにより平成19年2月期に約6億円の売上を不正に計上していた」というもので、2度目の粉飾は、「授業当日に生徒が欠席した場合に役務の提供があったものとみなして売上に仮装計上することなどにより、平成20年2月期から平成26年2月期第2四半期にかけて約84億円の売上を不適切に計上していた」というものです。最初の粉飾は監査法人の指摘により発覚し、2度目の粉飾は証券取引等監視委員会の調査により発覚したとされています。

1度目の粉飾が発覚した後、当時の代表取締役(上記裁判の被告、以下「被告代表者」)は、「授業実施数を正確に管理集計するJシステムをB監査法人の助言の下で構築して導入したほか、内部監査室の体制強化などを図った。」とされています。

しかしながら、1度目の粉飾よりも大規模な2度目の粉飾が起こっており、株主側は、「被告代表者は本件不正会計の事実や兆候を知りながら放置して適切な対処を怠ったのであるから、監視義務違反があると主張し」、また、「被告代表者は十分な監査機能を発揮できない内部監査室を設置し、虚偽の数値を入力可能なJシステムの導入など明らかに不十分な内部統制システムを導入したことから、内部統制システムの構築義務違反があるなどと主張したうえで、被告代表者に対してリソー教育に課せられた課徴金等に係る損害賠償を求めた」とのことです。

後半が内部統制システムの構築に対する義務違反についてですが、「十分な監査機能を発揮できない内部監査室」というのは、新興市場に限らず耳が痛いというケースもありそうです。

なお、2度目の粉飾について第三者委員会が監査役会に提出した意見書では、「不正会計に関与した取締役の責任を追及すべきである」とされていた一方で、「被告代表者については内部統制システムの構築及び運用の義務違反を認めることは出来ず、法的な責任を追及することは難しい旨」が記載されていました。そして、会社は不正会計に関与した取締役らに3億円の支払いを求める訴訟を提起しています。

内部統制構築義務違反という訴えに対して、東京地裁は、「代表取締役は原則として、通常想定される不正行為を防止し得る程度の管理体制を整えれば足り、不正行為が通常容易に想定し難い方法によるものであった場合には、代表取締役において不正行為の発生を予見すべきであったという特別な事情がない限り、その代表取締役に不正行為を防止するためのリスク管理体制を構築すべき義務に違反した過失があるということはできないという解釈を示した」とのことです。

そして、この事案では、Jシステム導入後に1度目の粉飾手法を用いた売上の不正計上は行えなくなっていること、2度目の粉飾は1度目の粉飾と全く異なる要因に基づいて発生していることなどから、裁判所は、Jシステムは導入当時に想定された不正行為を防止する程度の機能を有していたなどと指摘し、「当時の代表取締役が整備した内部統制システムはリソー教育の事業内容、規模等に照らして通常想定される不正行為を防止し得る程度の機能ないし有用性を備えていたことから、内部統制システムの構築義務違反は認められない」という判断を下したとのことです。

2度目の粉飾は、一部取締役が不正に関与したということで、内部統制の構築では防止が難しいという側面があります。ただし、2度目の粉飾発覚後、公表された「第三者委員会の調査報告に基づく再発防止策について」で内部通報制度の構築が挙げられており、内部通報制度がなかったという点が当時の一般的な状況と比べてどうだったのかという点では議論の余地はあるのかもしれません。

いずれにしても、内部統制をきちんと構築されていないと、こんな感じで訴えられることがあるという事例の一つとして記憶しておくとよいのではないでしょうか。

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