「M&A、費用計上の義務化検討 国際会計基準」-日経新聞より
日経新聞のイブニングスクープで「M&A、費用計上の義務化検討 国際会計基準」という記事が配信されてきました。数日前にも”IASBがのれん減損テストの緩和措置を検討するそうです”で、IASBがのれんの償却の再導入を検討するようだという経営財務の記事を紹介しましたが、その記事ではのれんの償却の再導入についても触れられていましたが、どちらかといえば、減損テストの方法を緩和するという方に焦点があたっていたと感じます。
一方、今回の日経新聞の記事では、「費用計上の義務化検討」とされ、減損テストの緩和を検討するということには触れられておらず、のれんの償却の再導入という方向に焦点があたっています。
FTの買収による巨額ののれんを計上している日経新聞の立場を忖度した記事といううがった見方もできますが、この記事で注目したのは、ハンス・フーガーホースト議長が”償却期間は「一律にするのが望ましい」”と述べたとされている点です。
償却期間を見積もるのではなく、「一律にするのが望ましい」というのは、現行実務からすると随分振り幅が大きいなという気がします。本当にIFRSがそのような方向で見直されれば、償却が実施されるという点では日本基準と同様ですが、償却期間の決め方に差が残ることになります。
このような見直しが検討される理由について、議長は「減損損失を巡る企業の判断が「楽観的になりやすい」うえ、計上のタイミングも「遅すぎる」と指摘」したとのことです。
また、興味深いのはIASB内では従来からのれんの会計処理を巡る問題が意識されていたが、「これまでは現状維持派が優勢で、議論を始めてもこなかった。しかし、今回は議長の意向もあって、7月に議論を始めると正式に決定」したとされています。
個人的にIFRSは概念とか理論とかいうものを日本基準以上に重視するようなイメージを持っていたので、議長の意向一つでかなり大きな論点の検討の有無が決まるというのは意外な気がしました。
仮にのれんの償却が必要となった場合に、IFRS適用企業ではどれくらいのが影響があるのかですが、「17年度時点で国内IFRS導入企業(約160社)は約14兆円、欧州の主要600社は240兆円ののれんを抱え」ており、20年償却が導入されたとすると、日欧合計で年間13兆円の減益要因が生じるとのことです。
日本企業でIFRSを任意適用している会社におけるのれん計上額の上位は、以下のとおりとなっています(2018年8月末時点)
1位 ソフトバンク 4兆3025億円
2位 JT 1兆8912億円
3位 武田薬品工業 1兆292億円
ここまでが1兆円以上で、5000億円以上の会社は電通とKDDIとなっています。武田薬品工業はシャイアーの買収によってトップに躍り出ることが予想されますが、償却が求められることとなると毎期数千億円単位で償却が必要となりますので、大きな影響をうけることとなると考えられます。
個人的にはのれんは結局のところよく分からないものですし、グルーピングという名の下に傍目には上手くいっていないようにみえるのれんが減損されないというようなものもどうかと思います。また、のれんを一定期間で償却しても利益がでる位のM&Aでなければ投資家としてもやってくれるなという考えなので、償却の導入には賛成ですが、M&Aに積極的な大企業が大きな影響をうけることとなるので、実現は難しいのかなという気はします。