会計帳簿閲覧権の対象となる会計帳簿はどこまで?
T&A master No.774に「会計帳簿等の閲覧当社請求をめぐる最近の裁判例」という記事が掲載されており、二つの裁判例が紹介されていました。
そのうちの一つの事案では、「会計帳簿又はこれに関する資料」の範囲に税務申告書及び月次試算表が含まれるのかが問題となったとされています。
原告株主は被告会社の元代表取締役で、保有する被告会社発行株式の全部の売却を検討するに当たり、最新の情報を元に評価額を把握する必要があるとして、「会計帳簿又はこれに関する資料」は会社の経理の状況を示す一切の帳簿資料をいうと解すべきとして、税務申告書や月次試算表も閲覧謄写請求の対象になると主張したとのことです。
結論としては、裁判所は、税務申告書及び月次試算表は「会計帳簿又はこれに関する資料」には当たらないと判断ました(東京地裁平成30年10月22日)。
裁判所は、「会社法433条1項一号所定の「会計帳簿」とは一定時期における営業上の財産及びその価額並びに取引その他営業上の財産に営業を及ぼすべき事項を記入する帳簿すなわち総勘定元帳、日記帳、仕訳帳及び補助元帳等を意味し、「これに関する資料」とはかかる会計帳簿を実質的に補充する書類を意味するものと解するのが相当である」としたとのことです。
その上で、「企業秘密の保護の必要性及び株式会社の業務及び財産の状況を調査する制度として業務検査役制度が法定されていること(会社法358①)などに鑑みれば」、「会計帳簿又はこれに関する資料」は会社の経理の状況を示す一切の帳簿資料をいうとするのは困難としたとのことです。
そして,税務申告者損益計算書及び総勘定元帳に基づき作成されるもの、月次試算表は仕訳帳から総勘定元帳の各勘定口座への転記が正確に行われているかを検証するために作成される集計表であることから、税務申告書及び月次試算表は、総勘定元帳、日記帳、仕訳帳及び補助元帳等には当たらないとしたとのことです。
税務申告書はたしかに総勘定元帳等とは別個に作成されるものなので理解できますが、月次試算表については、今どき手書きで会計帳簿をつけていることも少ないので、総勘定元帳は閲覧謄写の対象となっても月次試算表は対象外というのは株主からすると単なる嫌がらせにすぎないという気もします。
とはいえ、会社側で月次試算表を請求されることがあるかもしれませんので、こんな裁判例があったというのは頭の片隅においておくとよいと思います。
(会計帳簿の閲覧等の請求)
第四百三十三条 総株主(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株主を除く。)の議決権の百分の三(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の議決権を有する株主又は発行済株式(自己株式を除く。)の百分の三(これを下回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上の数の株式を有する株主は、株式会社の営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。この場合においては、当該請求の理由を明らかにしてしなければならない。
一 会計帳簿又はこれに関する資料が書面をもって作成されているときは、当該書面の閲覧又は謄写の請求
二 会計帳簿又はこれに関する資料が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写の請求
2 前項の請求があったときは、株式会社は、次のいずれかに該当すると認められる場合を除き、これを拒むことができない。
一 当該請求を行う株主(以下この項において「請求者」という。)がその権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき。
二 請求者が当該株式会社の業務の遂行を妨げ、株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき。
三 請求者が当該株式会社の業務と実質的に競争関係にある事業を営み、又はこれに従事するものであるとき。
四 請求者が会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報するため請求したとき。
五 請求者が、過去二年以内において、会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益を得て第三者に通報したことがあるものであるとき。
(以下省略)