改正民法(その2)-解除
今回は改正民法における解除について確認します。
現行民法では「履行遅滞等による解除権」(541条)、「定期行為の履行遅滞による解除権」(542条)、「履行不能による解除権」(543条)というように、債務不履行の態様によって規定されていましたが、改正民法では、「催告による解除権」(改正541条)、「催告によらない解除権」(改正542条)というように手続きによる違いによる規定の仕方に改正されています。
解除を検討する場合には、催告によらない解除→催告による解除という流れで検討することになると考えられるので、この順で確認することにします。
1.催告によらない解除(改正542条)
改正後の条文は以下のとおりです。
(催告によらない解除)
第542条
1.次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。
一 債務の全部の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。
四 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき。
五 前各号に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。
2.次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の一部の解除をすることができる。
一 債務の一部の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
大雑把に言えば、債務者に履行を催促しても意味がないような状況の場合には無催告解除が認められるということですが、改正民法542条1項1号~5号でそれに該当するケースが示されています。
1項1号では、履行全部の不能により、契約の全部を解除する場合に無催告解除が認められることを規定されています。
1項2号では、債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したときに無催告解除が認められる旨を規定しています。
「拒絶する意思を明確に表示したとき」とはどのような場合かですが。「実務解説 改正債権法(日本弁護士連合会編)131頁」(以下引用は同書による)では以下のとおり述べられています。
なお、履行拒絶による無催告解除が認められるためには履行不能の場合と同様に扱ってより程度の状況が必要であり、例えば債権者と債務者との間の交渉の過程で債務者がその債務の履行を拒絶する趣旨の言葉を発しただけでは、履行を拒絶する意思を「明確に表示したとき」という要件に該当するとはいえない
また、実務への影響として、改正542条1項2号・3号、2項2号について、「従前は債務者が履行を拒絶しても念のため履行を催告してから契約を解除することとが多かったと思われるところ、今後は、履行拒絶の意思を明確に表示した場合に無催告解除をするケースが増える可能性がある」とされていますが、一方で「履行を拒絶する旨を1回表明したという程度では足りず、書面によって履行拒絶の意思を強固に表示することや履行拒絶の意思を繰り返し表示することなどが必要になると思われる」とされているため、これを読む限りにおいては、結局、明確な拒絶の意思表示を相手に求めることが必要になることも多いと考えられ、実務にあまり影響はないのかもしれません。
1項3号では、履行の一部の不能により、契約の全部を解除する場合が規定されています。また、「同号には、改正前民法566条1項、570条や635条に規定されていた場合(担保責任による解除)も含まれる」とされています。さらに、債務の一部について履行拒絶があった場合について、履行の一部不能と同様の要件のもとで無催告解除が認められる旨も同号で規定されています。
1項4号では、現行542条を維持して、定期行為の履行遅滞による無催告解除について規定されています。
1項5号では、1号~4号のほか、「債務者がその債務の履行をせず、債権者が履行の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込がないことが明らかであるときに、無催告解除」が認められています。
この5号の対象となるのは「『債務の不履行それ自体によりもはや契約をした目的を達することができないと評価されるために催告要件を課すこと自体が不適切である場合』が対象となり、例えば、大型機械を用いたビルの清掃業務の委託契約において、債務者の従業員がその不注意によってビル内の人に大けがを負わせた場合などがこれに該当すると説明されている」とのことですが、「その適用対象が必ずしも明らかではなく」、「実務家としては、あくまで催告解除を原則とする立場に立ちつつ」、今後の動向に注意する必要があると述べられています。
改正542条では「契約をした目的」という用語が多く出てきますので、今後は契約書で契約の目的の明確化が図られるようになってくるかもしれません。
2.催告による解除(改正541条)
改正541条の条文は以下のとおりです。
(催告による解除)
第541条
当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。
現行541条(履行遅滞等による解除権)では、不履行の程度や態様等について特段触れられていないが、「たとえ催告しても、相当期間経過時の不履行の部分が数量的に僅かである場合や付随的な債務の不履行に過ぎない場合には解除原因とならないとする判例法理が確立していた」ことにより、改正541条では、この判例法理の趣旨が明文化されたとのことです。
不履行部分が軽微であるか否かについては、条文にあるとおり「契約及び取引上の社会通念に照らして」判断されることとなりますが、具体的には「その不履行が債権者に与える不利益や当該契約の目的達成に与える影響が軽微であるかどうかによって判断されると解される」と述べられています。
一言で言えば総合的に判断するということになるといえそうですが、一方で取扱いを明確にするため契約書で「軽微」の基準を定めたらどうなるのかですが、この点については以下のように述べられています。
軽微性の判断は、契約書の文言のみならず当該契約に関する一切の事情をもとに、当該契約についての取引上の社会通念も考慮して、総合的になされる。したがって、例えば、契約書で一定の事由を解除事由として規定しても、当該事由に該当する不履行が、契約の性質、契約をした目的、契約締結に至る経緯や、当該契約についての社会通念に照らして軽微であると判断される場合には、催告解除は認められない
契約書で「軽微」とは何かを規定することは、当事者間での解釈を明確にするという点で意味はあるのではないかと思われますが、一方で、契約書で定めたからといって、かならずしも「軽微」と認められるわけではないという点に注意が必要です。
また、「債務の不履行が『軽微』であることの主張・立証責任は、解除を争う当事者(通常は、不履行をした債務者)が負う」とされています。
最後に、現行民法543条ではただし書きで債務者の帰責事由が要求されていましたが、改正民法では、無催告解除、催告解除のいずれも、債務者の帰責事由は不要となりました。
これは、「解除は、当事者を契約に拘束することが不当な場合に契約の拘束力から離脱させることを目的とした制度であり、債務者に対する「制裁」と位置付けて帰責性を要求することは解除の制度趣旨に反するという理由から、債務者の帰責事由を不要とする意見が有力となった」ことなどによるようです。
債務者の帰責事由が必要か必要でないかは大きな違いのように感じますが、「理論的には大きな転換といえるが、裁判実務において債務者の帰責事由が解除の成否の判断において重要な機能を果たす事例は少なかったことから、実務への影響はそれほど大きくないと考えられる」とのことです。