記帳代行受任も当座勘定照合表の確認義務はなし-東京地裁
T&A master No.787に「顧問先の横領で税理士の責任めぐり判決」という記事が掲載されていました。
これは、顧問先が税理士に対して、税理士が月次試算表作成の際に当座勘定照合表を確認していれば経理担当者による横領を防げたと主張して損害賠償を求めていた税賠事件に関するもので、東京地裁は、記帳代行を受任した税理士に当座勘定照合表の確認義務は認められないと判断し、税理士側が勝訴したという事案です。
この事案における税務顧問契約には、本来業務の他に、会計帳簿の記帳代行及び月次試算表の作成が含まれていたとされています(月額報酬は約9万円)。税理士は平成26年2月分までは、月次試算表の作成にあたって当座勘定照合表との突合を行っていましたが、横領を行っていた経理担当者から当座勘定照合表が提示されなくなったことから、当座勘定照合表との突合を行わなくなったとのことです。
この経理担当者は、当座預金口座から他の口座へ資金を移動して約2000万円を横領していたとされ、自分の横領が発覚しないように当座勘定照合表を提示しなくなったようです。
納税者は、税理士に毎月当座勘定照合表を確認する義務があったと主張しましたが、東京地裁は、「会計帳簿の記帳代行を委任しただけでは一般的に税理士が会計帳簿の記帳代行の際に原資料と突合する義務があるとまでは言えないと指摘したうえで納税者の主張は税理士に求めた内部的な期待にとどまり、税理士の業務内容を当然に画するものとはいえないとした」とのことです。
また、納税者と税理士の間に当座勘定照合表の確認義務を生じさせる合意があったとも認定できないため、納税者の主張を退けたとのことです。
専門家としては、記帳代行を受任していたら、通帳とか当座勘定照合表などと照合は当然やっているものと期待されるのではないかと思いますし、記帳代行している側も自分で確認しておかないと気持ち悪いのではないかと思います。
相手が専門家であるだけに、一般的な期待水準としては当座勘定照合表との突合くらいはやっておくべきと感じるものの、一方で記帳代行の受任者が、委託者が悪意をもって隠した取引などを記帳していなかった場合にも責任を負わされるのは責任が重すぎるように感じるのも事実です。
原告は控訴しているとされ、このまま確定するのか未定ですが、一般的に専門家が記帳代行を受任する場合にどこまでの責任が求められるのか次の判決を待ちたいと思います。