不動産鑑定士の鑑定評価額、相続税法上の時価と認められず
相続により取得した土地の相続税評価額について争われた事案(東京地裁平成31年1月18日判決)がT&A master No.793で取り上げられていました。
この事案は、納税者が相続により取得した土地の相続税評価額について、評価通達が定める路線価方式による評価額ではなく、不動産鑑定士の鑑定評価額をもとにして相続税の申告を行いましたが、課税当局は、当該土地の評価通達に基づく評価額が鑑定評価額を上回るとして相続税の更正処分等を行ったというものです。
納税者は、裁判において、路線価の評価時点(1月1日)は相続開始の日とタイムラグが発生する点を指摘し、当該土地のような地価の変動の激しい地区にある土地の評価においては顕著であるから路線価方式による評価は合理性が認められないと主張したとのことです。仮に同じ不動産鑑定士が問題となった土地を1月1日時点で鑑定評価していたとしたら、路線価と比較してどの程度差があったのかはわかりませんが、この事案において納税者は、不動産鑑定士の鑑定評価額と比較すると路線価方式による評価額は約46%も高額であるとも主張したとされています。
これに対し、東京地裁は、路線価は公示価格の80%程度の水準を目途として定められており、地価が1年間で20%超下落するようなことがない限りは、路線価方式よる宅地の価額が地価変動を理由に時価を超えることはなく、評価時点にタイムラグがあることをもって、直ちに路線価方式の合理性が失われるものではないとし、また本件土地については、1月1日から相続開始日までに20%超の時価変動があったとはうかがわれないから、評価通達の定める方法によるべきではない特別の事情があるとは認められないとしたとのことです。
また、東京裁判所は、「仮に鑑定意見書等による評価方法が一般に是認できるものであり、その算出価格が財産の客観的交換価値と評価し得るものであったとしても、その算出価格が評価通達の定める評価方法による評価額を下回っているというのみでは、評価通達の定める評価方法により算出された価額が相続税法22条規定の時価を超えるものということはできないと指摘」したとのことです。
担税力という点からすると、仮に鑑定評価額が客観的交換価値と評価し得るものといえるのであれば、路線価による評価額が鑑定評価額の評価額を約46%も上回るのであれば、鑑定評価額を認めないというのは納税者に酷な感じはしますが、この事案では、一方で裁判所は1月1日から相続開始日までに20%超の時価変動があったとはうかがわれないと判断していることから、鑑定評価書の評価額は理論的ではあっても実態を反映しているものとは認められなかったということかもしれません。
本当に時価が下がっていたのか、知り合いの不動産鑑定士などに依頼して評価額をできるだけ低くしてもらうようなお願いをしたのかは定かではありませんが、時価が本当に大きく下落していることもあるでしょうから、国指定の不動産鑑定士の評価であれば使用できるというような制度があってもいいのかなという気はします。
そもそも相続税がかからない国もありますが…