和解条項の包括的清算条項は源泉税にも及ぶのか?
「和解金に係る源泉税負担を巡り会社勝訴」という記事がT&A master No.795に掲載されていました。
今回同誌が取り上げられていたのは、高裁判決の結果です。この事案は、元役員から起こされた未払役員報酬請求訴訟に対して、会社は裁判上の和解により元役員に対して解決金1億5000万円を支払い会社は当該金額を損害賠償金として損金算入したところ、税務署は当該金額が役員給与と認定し、源泉税約6000万円の納税告知処分を行ったことに端を発するものとされています。なお、元役員に求償する前に、解決金に係る納税告知処分の取り消しを求めて国税不服審判所に対して審査請求を申し立てましたが、役員給与に該当すると請求が退けられています。
その後、会社は所得税法222条の規定による求償権に基づき源泉税相当額の支払いを元役員に対して求める訴訟を提起しましたが、一審判決では、和解条項に包括的清算条項が設けられていることから、当該求償権は和解により清算されているものとして、会社の訴えは退けられました。
一審で会社は、解決金の源泉税に係る求償権は税務署からの納税告知処分に応じて不納付分を支払った時点で発生したものであるから和解成立前の事由を原因とする債権ではなく、和解における包括的清算条項の対象とはならないと主張したとされています。
これに対し裁判所は、税務処理全般に常時関与する税理士も当然存在していたであろうことからすれば、役員給与(賞与)と認定されることは当然に予期し得る性質の債権であるといえるため、このような債権も和解における清算の対象とすることは当事者の合理的意思としてありえるものと言うべきとして会社の主張を退けました。
こういわれると、元役員に源泉税を求償できないと税理士に責任が飛び火しそうですが、幸い高裁では会社の主張が認められ、元役員に源泉税相当額の支払いが命じられました。
高裁は、解決金に係る源泉税は和解により発生したものであるから、和解条項に設けられた包括的清算条項をもって、源泉税相当額を元役員が負担しないとの合意があったと認めることはできないと判断したとのことです。
そして、会社と元役員との「和解協議のなかで代理人弁護士を含む当事者双方(会社及び元役員)が解決金の支払いに伴って給与所得として源泉義務が発生することを想定しておらず、和解交渉では源泉税の負担について協議をしなかったことが認められる」としたうえで、「会社及び元役員との間で、解決金に係る源泉税を会社が負担し、会社が元役員に対して源泉税相当額の支払を請求しない旨の合意が成立したものと認めることができないから、所得税法222条の規定のとおり、会社は元役員に対して源泉税相当額の求償することができると判断した」とされています。
したがって、和解条項に設けられた包括的清算条項が存在しても、他に源泉税の負担について合意が成立していたと認められる事項がなければ、解決金の支払いによって生じることとなった源泉税については、相手方に求償できるということになるようです。
もっとも事後的に求償するのは大変なので、きちんと源泉徴収してから相手方に支払うということが重要だと考えられます。その際、和解における包括的清算条項にふれて、源泉徴収について文句を言われた場合には、この判例が役に立つと思いますので、記憶にとどめておくとよいのではないかと思います。