敷金の額を上回るため簡便法から原則法へ変更した事例(資産除去債務)
経営財務3419号に2018年4月期から2019年2月期の日本基準採用会社(上場会社)のうち、会計上の見積りの変更を開示していたのは110社117件であったという記事が掲載されていました。
117件のうち92件(78.6%)は資産除去債務関連とのことです。小売業では、店舗で計上していた資産除去債務が、見込よりも早期に退店することとなったというようなケースで見積の変更が行われることとなると考えられるため、資産除去債務関連の記載が多くなるのは特に違和感はありません。
同記事では、小売業の店舗の退店に関連しての記載例も紹介されていましたが、あまり見たことがないなと思った事例として2018年7月期のラクスル株式会社の事例が取り上げられていました。ラクスルの有価証券報告書では以下のような開示が行われていました。
(会計上の見積りの変更)
(資産除去債務の計算方法に係る見積りの変更)
当事業年度において、当社の本社事務所の不動産賃貸借契約に基づく退去時における原状回復義務に係る資産除去債務について、本社事務所の拡張を行ったことに伴い、使用見込期間に関して見積りの変更を行いました。
また、資産除去債務の計上については、従来、負債計上に代えて不動産賃貸契約に関連する敷金の回収が最終的に見込めないと認められる金額を合理的に見積り、当事業年度の負担に属する金額を費用に計上する方法によっておりましたが、当事業年度より、原状回復費用を資産除去債務として負債計上することといたしました。これは、当事業年度において本社事務所の拡張を行ったことにより、原状回復費用の総額が敷金の総額を上回ることとなり、従来の方法によることが認められなくなったことによるものであります。
これにより、当事業年度において資産除去債務を102,943千円計上しております。なお、見積りの変更による影響額は軽微であります。
一般的には貸し手も原状回復費等を担保したため、拡張時に追加の敷金等を要求し、それにより原状回復費が敷金の金額を上回るというようなことはあまり生じないと思いますが、手の込んだ造作を行ったり、敷金等の水準が通常よりも低いということであれば、上記の事例のように、新たに見積もってみたら敷金の額を超過していたということが生じる可能性はあります。
オフィスの貸手がこの開示に気づいているのかいないのか、気づいていたとして敷金の増額交渉があるのだろうかというのが気になるところです。来年の有報で差入保証金の金額がどうなっているのかで確認してみたいと思います(忘れているでしょうが・・・)。
見積の変更の残り25件のうち14件は有形・無形固定資産の耐用年数関連で、これも件数がそこそこ多いというのは特に違和感はありません。逆に意外に少ないと感じたのが引当金関連の2件(退職給付関連は別途4件あり)ですが、引当金で見積の変更で開示されるのは、そもそもの方法を変更したようなケースとなると思われますので、そういった意味では根本的な方法を変更することは少ないので件数も少なくなるということなのだと思われます。