時価の算定に関する会計基準(その1)
2019年7月4日にASBJから「時価の算定に関する会計基準」(以下、「時価算定基準」とします)が公表されました。原則適用は、2021年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首からとされていますので、3月決算会社では来期からとなりますが、2020年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から、若しくは、2020年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から早期適用することも可能とされています。
というわけで、内容を確認しておくこととしました。
1.IFRS13号との異同
まず、時価算定基準はIFRS第13号の「公正価値測定」の定めを基本的にすべて取り入れたものとされています。ただし、用語としては「公正価値」ではなく「時価」が用いられています。両者に実質的な差異はありませんが、時価算定基準では、我が国における他の関連諸法規において広く用いられている「時価」という用語を用いることとしたとのことです。
基準の適用範囲について、IFRS13号では、一部の項目を除きすべての公正価値測定に関する開示が要求されている場合に適用され、金融商品だけでなく固定資産等の公正価値測定も適用範囲に含まれますが、時価算定基準の適用範囲は、金融商品とトレーディング目的の棚卸資産のみとなっている点で両者は異なっています。
なお、年金資産はどうなるのかですが、金融商品が年金資産を構成する場合は,当該金融商品の時価の算定に時価算定基準が適用されるとのことです。一方で、開示に要する費用対効果を勘案し、賃貸等不動産の時価開示や企業結合における時価を基礎とした取得原価の配分については、時価算定基準の適用範囲に含めないこととされています。
2.時価とは何か
「時価」とは、算定日において市場参加者間で秩序ある取引が行われると想定した場合の、当該取引における資産の売却によって受け取る価格又は負債の移転のために支払う価格をいう(基準5項)。
上記の定義にある「秩序ある取引」というのは、大雑把には普通の取引という意味くらいに考えておけばよいと思われます。例えば、強制された清算取引や投げ売りは「秩序ある取引」には該当しないとされています(基準4項(2))。
また、「時価」は、直接観察可能であるかどうかにかかわらず、算定日における市場参加者間の秩序ある取引が行われると想定した場合の出口価格であり、入口価格ではないとのことです。
3.時価の算定単位
資産又は負債の時価を算定する単位は、それぞれの対象となる資産又は負債に適用される会計処理又は開示によるとされています(基準6項)ので、金融商品の場合は、基本的に個々の金融商品が時価の算定の対象となります。
ただし、一定の要件を満たす場合には、特定の市場リスク(市場価格の変動に係るリスク)又は特定の取引相手先の信用リスク(取引先相手の契約不履行に係るリスク)に関して金融資産及び金融負債を相殺した後の正味の資産又は負債を基礎として、当該金融資産及び金融負債のグループを単位とした時価を算定することができるとされています。なお、この取扱いを適用する場合、継続適用が条件とされ、注記が必要とされています(基準7項)。
4.時価の算定方法(評価技法)
時価は、インプットと評価技法を用いて算定することとされており、状況に応じて十分なデータが利用できる評価技法を用いることが求められています。この際、関連性のある観察可能なインプットを最大限利用し、観察できないインプットの利用を最小限にしなければならないとされています(基準8項)。
具体的な評価技法としては、マーケット・アプローチ、インカム・アプローチ、コスト・アプローチなどが考えられますが、基準では例としてマーケット・アプローチとインカム・アプローチが挙げられています。
なお、時価の算定に用いる評価技法は、毎期継続して適用する必要があるとされ、評価技法又はその適用(複数の評価技法を用いる場合のウェイト付けなど)を変更する場合は、会計上の見積りの変更として処理するものとされています(基準10項)
今回はここまでとします。