変形労働制の導入は不利益変更にあたる?
職種によっては月の中でも月初と月末が忙しいなど、数日間だけ業務が集中し残業が必要というようなことがあります。
このような場合、使用者サイドとしては、忙しい時期の所定労働時間を増やし、比較的暇な時期の所定労働時間を短くすることで、残業代を抑えられないかということを考えます。
このようなニーズに応える制度として、労働基準法では一定の要件を満たすことにより1か月単位の変形労働時間制や1年単位の変形労働制が認められています。したがって、変形労働制自体は、一定の手続要件などがあるものの法令上認められたものです。
とはいえ、いままで変形労働制が適用されていなかった事業場において、新たに変形労働制を導入することが不利益変更に該当するのかが問題となります。
従業員からすれば、いままでであれば10時間労働した日は2時間分の時間外手当がもらえていたところ、その日の所定労働時間が10時間とされてしまえば、残業代はもらえないということになりますので、納得がいかないという従業員がでてくることも容易に想像されます。
変形労働制の導入が不利益変更にあたるのかについて、労働条件の不利益変更 適正な対応と実務 (労政時報選書) [ 岡芹健夫 ]では、以下のとおい述べられています。
変形労働時間制は、労働者に不利益になることがあることは否定できませんが、一定単位(月、年等)での労働時間の増加を予定している制度ではないため、労働者側の不利益としては大きなものとはいえず、それに鑑みて、法に定められた一定の要件の下、導入することを労基法32条の2により認められているところです。すなわち、その導入による前述のような労働者の不利益を想定の上、労基法は変形労働時間制を法制度として規定しているといえ、労基法32条の2に規定の一定の要件(就業規則による規定、労使協定の締結等)が充足していれば、その導入には原則として合理性が認められると考えられます。もっとも、特に就業規則のみによる変更の場合は、労働者にとっては一方的な変更になるので、一定の配慮(極端に労働時間の伸縮を行う者ではないこと、時間的猶予、段階措置等)があることが望ましいでしょう。
上記からすると不利益変更に該当するかしないかという点については、不利益変更にあたり、残業代がもらえるもらえないという点はあるものの、合計労働時間に変化は無いこと、所定労働時間が短くなる日もあること、そもそも労基法で認められている制度であることなどからすると、不利益の程度は小さいということのようです。ただし、一定の配慮は必要と述べられています。
この点について労働条件変更の基本と実務 [ 石嵜 信憲 ]では以下のとおり述べられています。
変更労働時間制の導入は、1週40時間、1日8時間という固定的な労働時間制と異なり毎日の勤務時間が不規則になるため、従業員にとって私生活等との関係で不利益が生じる点で不利益変更に該当します。
そして、「変更の合理性を担保する上では、単位期間内における総労働時間の短縮がポイントとなります」とされていますが、一方で、「1か月単位の変形労働時間制であれば、1年単位や1週間単位と異なり労働基準法の制定当初から4週単位の変形労働時間制として存在していたことから、総労働時間の短縮が望ましいものの必須というわけでなく、それがなくとも変更の合理性が肯定される可能性があると考えられます」と述べられています。
というわけで1か月単位の変形労働時間制であれば、不利益変更ではあるものの、一定の配慮をすることで新たに導入することが比較的容易ということになると考えてよさそうです。