役員報酬の自主返納と定期同額給与
前回新型コロナウイルスによる業績悪化をうけて上場会社で役員報酬を一定期間減額する旨を適時開示で公表してる会社が相当数あるという事項を取り上げましたが、一方で、役員報酬を自主返納する旨を公表している会社もそれなりの件数が見られます。あくまで個人的な感覚ですが、双方の割合は役員報酬の減額が7割、自主返納が3割といったところではないかと思います。
例えば、株式会社物語コーポレーションは2020年5月8日に開示した「2020年6月期通期業績予想の修正ならびに役員報酬の自主返納に関するお知らせ」で、業務執行取締役6名が役員報酬月額の10%(3か月間)を返納する旨を公表しています。また、前回とりあげた青山商事株式会社では監査役については報酬を自主返納する旨が公表されています。
前回の結論としては、役員報酬の減額の場合、一定期間経過後にもとの金額に戻った場合に、その増額分については定期同額給与としては認められないだろうということでしたが、自主返納の場合は、「役員給与の支給額に変動はないため、定期同額給与には影響しない」(税務通信3604号 ショウ・ウインドウ「定期同額給与と自主返納」)こととなるとされています。
税務通信の記事では、業績悪化改定事由による減額改定など、期中に給与の増減があった場合であっても定期同額給与として取り扱われる事由に該当しない場合、自主返納という選択肢があることを知っておいて損はないだろうと述べられています。
新型コロナウイルスの影響による減額改定については、国税庁の公表している「国税における新型コロナウイルス感染症拡大防止への対応と申告や納税などの当面の税務上の取り扱いに関するFAQ」により、比較的柔軟に認められるようですので、減額するだけであれば役員報酬の減額でも特に問題ないと思われますが、数か月間減額するという場合であれば、報酬額が戻った後のことを考えて自主返納を選択するということも考えられます。
ただし、法人からすると役員報酬を損金算入できる一方で、「自主返納の場合、役員給与の支給はあるため、源泉所得税や社会保険料を徴収する必要があり、返納分を雑収入に計上する点に留意したい」とされています。
よって、自主返納が役員報酬の額面額を会社社に返納するということだとすると、税負担や社会保険料負担分だけ、役員減額よりも役員の負担は重くなるということだと考えられます。そうだとすると、定期同額給与の問題があるのではないかという中で、全体的な件数としては役員報酬の減額の方が多いようであるということも理解できます。
なんとなく同じようなものとして、役員報酬の減額と自主返納の選択を誤ると、あとで役員に恨まれる(怒られる)可能性もありますので注意しましょう。