”183日ルール”にコロナ禍の特別措置なし-免税対象外の場合遡りで源泉必要
新型コロナウイルス感染症の影響で、海外赴任中であった非居住者の日本人が一時帰国しているケースは比較的多く耳にします。海外から本社の命令等で帰国した日本人は、その後各国で入国制限が継続していることもあり再出国できていないケースが多いのではないかと思います。
外務省のHPに掲載されている情報によると2020年7月15日現在、日本からの渡航者や日本人に対して入国制限措置をとっている国・地域(147か国/地域)、日本からの渡航者や日本人に対して入国後に行動制限措置をとっている国・地域(84か国/地域)となっています。
日本の感染者数は米国などと比較すれば1日あたりの感染者数は桁違いに少ないものの、ある程度収束に向かっている国からすると増加傾向を示している状況で、上記の制限がすんなり解除されていくようには思えません。
租税条約による給与所得の短期滞在者免税については、暦年単位で183日を超えないことが要件とされているケースが多いと思いますが、アメリカ、イギリス、オーストラリアなどは「当該他方の締約国における当該課税年度において開始し、又は終了するいずれの12箇月の機関においても、報酬の受領者が当該他方の締約国内に滞在する期間が合計183日を超えないこと」(日豪租税条約13条2(a)など)と時点時点で直近12箇月で判定されるようなケースや、タイのように183日ではなく180日が基準とされているケースもあります。
したがって、各国との租税条約を確認する必要があるものの、今年のみで判定されるというケースにおいて今年4月初旬に帰国している場合はすでに100日程度を経過しており、残りの期間内に出国できるかが怪しい状況となっています(対応が早かった会社ほど残りわずかとなっているはずです)。
「コロナ禍でのやむを得ない滞在期間についても、183日の滞在日数に含まれることになり、現時点では、同期間を滞在日数から除外するといった特別な対応は検討されていない模様」(税務通信3613号:税務の動向)とのことです。何らかの特別措置があってもよいのではないかと思う一方で、国と国で締結された(租税)条約については、憲法98条2項において「…これを誠実に遵守することを必要とする」とされていますので、租税条約の取り扱いを無視して変更するというのは、容易ではないと考えられます。
また、そもそも原則論で考えれば日本国内で労働したのであれば、日本で課税されても仕方がないという面もありますので、「特別な対応は検討されていない模様」というのは致し方ないと思われます。
「土曜日や日曜日、祝日などのほか、ストライキ,ロックアウトなどの状況も滞在期間に含まれており、基本的には,物理的にその国にいれば滞在日数にカウントされる」(税務通信3613号:税務の動向)とされ、基本的に日本に滞在していれば、着々とカウントされていくこととなります。
「病気」での滞在も基本的な取り扱いに変更はないものの、「『当人が出国することができない場合を除く』とされている」ことから「新型コロナウイルス感染症等に罹患し入院していたような場合には,その間は滞在期間に含まれないようだ」とのことです。感染予防で帰国しているため、これに該当するケースはほとんどないと考えられますが、一応抑えておきましょう。
最終的に、租税条約で認められている要件(183日を超えない)などを満たさなくなった場合には、帰国後最初に受け取る給与等から遡って免税措置が適用されず、厳選徴収義務が生じることとなるとのことです。
直近の状況を踏まえると、遡って源泉徴収することを想定して準備を始めておいたほうがよいかもしれません。