在宅勤務と特定支出控除
税務通信の記事により、2020年6月29日に「令和2年分以後の所得税に適用される給与所得者の特定支出の控除の特例の概要等について(情報)」で質疑応答事例に「16 勤務必要経費(在宅勤務)」が追加されていることに気づきました。
特定支出控除は、給与所得者が各年に特定支出をした場合に、その年の特定支出の額の合計額が、その年中の給与所得控除額の2分の1相当額を超えるときに、確定申告によりその超える部分の金額を給与所得控除後の所得金額から差し引くことができるという制度です。
少なくとも給与所得控除額の2分の1相当額を超えなければならないので、実際には適用する機会は多くないと考えられますが、在宅勤務を行うにあたり、仕事をする部屋に冷房を設置したとか、机を購入したとか、大きなモニターを購入した、あるいはPCを購入したなどなど色々あった場合には、これらがすべて認められれば該当するということもあるかもしれません。
この点、上記質疑応答「16 勤務必要経費(在宅勤務)」には以下の問が追加されています。
問 在宅勤務を命じられたことに伴い、職務の遂行に直接必要なものとして、次の費用
を支出しました。
⑴ 机・椅子・パソコン等の備品購入のための費用
⑵ 文房具等の消耗品の購入のための費用
⑶ 電気代等の水道光熱費やインターネット回線使用のための費用
⑷ インターネット上に掲載されている有料記事購入のための費用
これらの費用に係る支出は、勤務必要経費として特定支出に該当しますか。
上記の(1)~(4)のうち、勤務必要経費として認められるのは(4)のみで(1)~(3)は勤務必要経費のいずれにも該当しないとされています。ここで、勤務必要経費は、①職務に関連する図書や②勤務場所において着用することが必要とされる衣服を購入するための支出、③給与等の支払者の得意先や仕入先などの職務上関係のある方に対する接待等のための支出のうち、その支出がその方の職務の遂行に直接必要なものとして給与等の支払者により証明されたものとされています。
(4)のインターネット上に掲載されている有料記事購入のための費用は図書費に該当するとされていますが、1(1)~(3)は①~③のいずれにも該当しないため勤務必要経費(在宅勤務)に該当しないということです。「机・椅子・パソコン等の備品購入のための費用」が該当しないことから、冷房設備も当然該当しないということになります。
もともと給与所得控除は、サラリーマンが仕事に必要な支出があるだろうという建付でみとめられているものなので、仕方がないと思うものの「給与所得控除額の2分の1相当額を超えるとき」という要件に加え、給与等の支払者により証明がされたものというのは、ハードルが高い条件だと感じます。
質疑応答事例をみると、資格取得費用、スーツ(着用が求められる場合のみ)、書籍代、新聞代など特定支出と認められる可能性がある項目はそれなりにありますが、すべてをこつこつ会社等に必要だと証明してもらうというのは心理的にハードルが結構高いので、現実問題としては、資格取得費用など一項目で多額のものがないとなかなか適用をうけるのは厳しいと考えられます。
国税庁が公表した2018年分の所得税確定申告における給与所得者の特定支出控除の適用状況によると同特例を適用した納税者は1,704人(適用件数3,154件)で、前年より人員で86人、件数で163件増とのことです。内訳は「研修費」が546件、「資格取得費」が581件、「帰宅旅費」が531件とのことです。「帰宅旅費」で500件を超える適用を受けている方がいるというのが意外でしたが、基本的にはやはり値が張りそうな「研修費」や「資格取得費」があった場合に思い出したい制度という理解でよいと考えられます。