社外取締役の在り方に関する実務指針ー社外取締役の5つの心得とは?
2020年7月31日に経済産業省から「社外取締役の在り方に関する実務指針(社外取締役ガイドライン)」が公表されました。
このガイドラインの目的は、「令和元年に成立した改正会社法 (以下「令和元年改正会社法」という。)において上場企業等における社外取締役の設置が義務づけられることとなった趣旨等も踏まえ、我が国の上場企業の社外取締役(これから社外取締役に就任することを検討している候補者を含む。)を広く対象として、社外取締役に対して期待される基本的な役割を明確にした上で、そうした役割を果たすための取組について、社外取締役として経験豊富な方々の経験知に基づくベストプラクティスを紹介することで、会社の持続的な成長に向けた実質的な機能の発揮を促すもの」と述べられています。
そして、”「市場や資金調達の面でグローバル化を図り、グローバル競争の中で持続的な成長を目指す企業」においては、海外機関投資家の期待も踏まえ、グローバル水準のガバナンス体制を構築する必要性が高いと考えられることから、特に、こうした企業の社外取締役においては、本ガイドラインの提言を踏まえ、更なるガバナンス強化を目指し、より積極的な取組を行うことが期待される”と述べられています。
一方で「第2章 社外取締役としての具体的な行動の在り方」、「第3章 会社側が構築すべきサポート体制・環境」については、”コーポレートガバナンス・コードに基づく基本的な要請から先進的な事例を踏まえた実務上の工夫まで、様々なレベルのものが含まれているが、必ずしも一度にすべて対応しなければならないということではなく、企業規模やグローバル化の程度、社外取締役の人数等、各社の状況に応じた優先順位により、できるところから一歩一歩進めることも有意義である”として、各社の状況に応じた対応が求められています。
「第2章 社外取締役としての具体的な行動の在り方」、「第3章 会社側が構築すべきサポート体制・環境」についての細かな内容は、原文で確認して頂いた方がよいと思いますので、ここでは「社外取締役の5つの心得」として示されているものの概要を紹介します。
社外取締役の心得として示されているのは以下の5つです。
《心得 1》社外取締役の最も重要な役割は、経営の監督である。その中核は、経営を担う経営陣(特に社長・CEO)に対する評価と、それに基づく指名・再任や報酬の決定を行うことであり、必要な場合には、社長・CEO の交代を主導することも含まれる。
なお、「社外取締役が行うべき経営の「監督」については、経営陣による業務執行が暴走しないようにブレーキをかけるという「守り」の意味で捉えられがちだが、会社の持続的な成長を実現するための「攻め」(適切なリスクテイクに対する後押し)の意味での監督も含まれることに留意が必要である」とされています。
攻めおよび守りの「監督」があるとしても、「監督」が主な職務であるため、過度に細かい業務執行に立ち入らないようにすべきとされ、社長・CEOの交代を含めた経営陣に対する監督を行う事が期待されるとされています。
会社法の改正を待つまでもなく、CGコードの要請等により、上場会社での社外取締役選任率は98.4%(2019年8月1日東証公表資料より)とほとんどの会社で社外取締役が選任されていましたが、「指名・再任や報酬の決定」という面において、同時期における上場会社全体における指名委員会(任意・法定双方を含む)の設置率は33.3%、報酬委員会(任意・法定双方を含む)の設置率は35.6%と、社外取締役の選任率と比較すると低水準にとどまっています。
委員会形式にするかどうかはともかく、上記心得1からすれば、社外取締役は「指名・再任や報酬の決定」に積極的に関与する姿勢を示す必要があるということのようです。
《心得 2》社外取締役は、社内のしがらみにとらわれない立場で、中長期的で幅広い多様な視点から、市場や産業構造の変化を踏まえた会社の将来を見据え、会社の持続的成長に向けた経営戦略を考えることを心掛けるべきである。
心得2については、心得に書いてあることがほぼすべてといえそうですが、強いてあげるとすれば、「会社の持続的な成長と中長期的な企業価値を向上させるためには、ESGやSDGsの視点を含め、グローバルな潮流も踏まえた持続可能性を意識しつつ経営を行うことが必要である」と「ESGやSDGsの視点」についても言及されています。
ただし、”「ESG や SDGs 等が、企業の資本効率が低いことの言い訳として利用されないように注意すべきである。」との指摘があった。”とのことです。
《心得 3》社外取締役は、業務執行から独立した立場から、経営陣(特に社長・CEO)に対して遠慮せずに発言・行動することを心掛けるべきである。
「いつでも会社を辞任できる覚悟を含む精神的な独立性、そのために会社に対して経済的に過度に依存しすぎないことが重要である」とされています。そういった意味では、次第に報酬依存度が高い社外取締役は選任対象としないというような流れになっていくのかもしれません。
《心得 4》社外取締役は、社長・CEO を含む経営陣と、適度な緊張感・距離感を保ちつつ、コミュニケーションを図り、信頼関係を築くことを心掛けるべきである。
ここでは「信頼関係を築くためには、「監督者」として一方的に自分の考えを述べるのではなく、経営陣の話をよく聴き、自分の意見に対する反論にも真摯に耳を傾ける謙虚な姿勢が望まれる」など、ごく当たり前と思われることが述べられているだけとなっています。
《心得 5》会社と経営陣・支配株主等との利益相反を監督することは、社外取締役の重要な責務である。
会社と経営陣や支配株主等との利益相反が生じ得る場面の例として、
MBO(マネジメント・バイアウト)や支配株主による従属会社の買収への対応
支配株主等との取引
敵対的買収への対応(買収防衛策の導入や実行等)
第三者割当増資 等
が考えられるとされ、特に、「MBO(マネジメント・バイアウト)や支配株主による従属会社の買収への対応」については、取締役や支配株主の利益と一般株主の利益との間の利益相反リスクが特に深刻となり得る場面であり、企業価値の向上と一般株主共同の利益の確保を図るという社外取締役の役割を果たすため、平時よりも踏み込んだ対応が求められる」とされています。
MBO、敵対的買収への対応については頻繁にあることではありませんが、支配株主等との取引や第三者割当増資については、株主構成の状況や資金調達により比較的発生することが多い事象ですので、社外取締役の重要な責務として利益相反の監督に注力する必要があるとあらためて意識しておく必要がありそうです。
心得5つは、特殊なことが書いてあるわけではありませんが、かといって、ほとんどの社外取締役が守れていることであれば改めて公表されるようなものでもないと考えられます。現実問題としては、それほど容易な事ではないことだと考えられます。社外取締役に対する社会的な期待が高まってきているというのは確かだと思いますので、このような心得を踏まえて、適切に職務を全うすることが重要だと考えられます。