役員給与を受領辞退した場合の課税関係
適時開示でもたまに見かけますが、コロナ禍の業績悪化により役員給与を期間限定で減額しているケースがあります。このようなケースにおける課税関係をまとめた記事が税務通信3633号の税務の動向に掲載されていました。
今回は関係しなくても、将来関係する可能性はある内容ですのであらためて取上げることとします。
法人税と所得税の両方の課税関係を考える必要がありますが、「臨時改定事由」に該当するものとして役員給与を減額するのであれば、定期同額給与の問題はクリアできますし、所得税も減額された役員給与をベースに課税されるということになります。
ただし、期中の3か月間だけ役員給与を減額したいというような場合には、減額時も増額時も「臨時改定事由」に該当しなければならないため、「臨時改定事由」に該当するとして下げることはできても、一定期間後に役員給与を元に戻して損金算入が認められるケースはかなり限られるということのようです。
では、「自主返納」した場合はどうなるのかですが、法人税法上は、「役員給与の支給額に変動はないため、定期同額給与には影響しない」とされています。
ただし、「役員給与の“支給”はあるため、返納分についても源泉所得税や社会保険料を徴収する必要がある点がネックとなる」というてんには注意が必要です。役員給与自体は損金算入が認められるので、自主返納された金額は雑収入等で計上されることとなります。
適時開示等で役員報酬の○%を△か月自主返納するというようなリリースを見かけることがあり、深く考えたことはありませんでしたが、こういったケースでは源泉所得税や社会保険料相当額控除後の手取額を返納しているということなのではないかと推測されます。
次に、一度受け取った金額を「自主返納」するのではなく、受領する前に辞退した場合の課税関係がどうなるのかですが、この場合は、役員給与の支給期限前に辞退の意思を表示して辞退したのか、支給期限到来後に受領を辞退したのかで課税関係が異なるとされています。
支払期限到来前に辞退した場合は、所得税は課されませんが、法人税上は定期同額給与の要件は満たさないとのことです。
これは所得税法上、「給与の支給期とは、給与所得の収入金額の収入すべき時期であり、給与の支給について具体的に請求できる時期となる」とされているところ、支給期限到来前に受領辞退の意思を明らかにして、支給を受けないこととなった場合には、辞退した分の請求権が発生しないこととなるためとのことです。
したがって、この場合源泉徴収は不要ということになります。
一方、法人税法上の「“支給”とは、現実の支払いを意味するものではなく、債務の確定を意味するものと解されており、未払い給与についても支給時期が到来していれば要件を満たすが、支給期の到来前に受領を辞退した場合には、前述の通り債務自体が発生しておらず、その辞退した金額は役員給与を“支給”したとはいえない」ということになり、定期同額の要件を満たさないとのことです。
なお、この点に関して、「会社として役員給与を減額したわけではないため、定期同額給与の要件を満たし、損金不算入額は生じないという意見もあるようだが、実際には損金不算入額が生じる」と述べられているので注意しましょう。
支払期限到来後に受領を辞退した場合は、役員給与を支給したといえるため、定期同額給与の要件を満たすこととなりますが、会社側は、役員給与の支払債務の免除を受けたこととなり、原則として、免除を受けた時をその支払の時として源泉徴収をしなくはならないということになるとのことです。
「原則として」というのは、一部例外( 所基通181~223共-2、 3)があるものの「業績が悪化しただけでは該当しないため、適用できるケースはかなり限定的」とされており、受領辞退の場合は、所得税か法人税のどちらかで課税上の問題が生じてしまうということになるようです。
逆に言えば、どちらかの課税上の問題を許容するというのであれば、どちらを優先するかによって、受領辞退の意思表示を支給期限到来前にするのか後にするのかで調整は可能ということになりそうです。