2020年12月期KAMの早期適用は8社
経営財務3502号に掲載されていた記事(「キヤノンが2期目のKAM記載」)によると、2020年12月期の有価証券報告書でKAMを早期適用していた会社が8社あったとのことです。
KAMを早期適用していたのは以下の8社(IFRS適用会社5社、日本基準3社)とのことです。
➀中外製薬(医薬品、あずさ、IFRS)
②日本たばこ産業(食料品、トーマツ、IFRS)
③花王(化学、トーマツ、IFRS)
④ブロードリーフ(情報通信業、あずさ、IFRS)
⑤AGC(ガラス・土石製品、あずさ、IFRS)
⑥荏原製作所(機械、EY新日本、日本基準)
⑦グローバル・リンク・マネジメント(不動産業、EY新日本、日本基準)
⑧ピジョン(その他製品、PwCあらた、日本基準)
なお、会社法上の監査報告書にKAMを記載した事例はなかったそうです。
また、経営財務の記事のタイトルにあるとおり、米国基準を適用しているキヤノン(電気機器、トーマツ)は2期目のKAMを記載していています。キヤノンは、2020年12月より監査人がEY新日本からトーマツされているため、KAMの記載事項がどのように変化したのかについて上記の記事では取り上げられていました。
2期の記載を比較してみると、KAMの大枠では共通しているとのことです。
KAMとして選定された項目は2019年12月期と2020年12月で以下のとおりとなっています。
2019年12月期
・のれんの評価
・未払販促費の評価
・子会社株式の評価
2020年12月期
・のれんの減損テスト-メディカルシステム報告単位-連結財務諸表注記1及び7
・収益-産業機械その他セグメントにおける長期契約-連結財務諸表注記14
・子会社株式の評価-キヤノンメディカルシステムズ株式会社の株式-財務諸表注記(有価証券関係)
大枠は共通としながらも、たとえばのれんの減損テストについては、2019年12月期は「売上高成長率、売上高営業利益率及び加重平均資本コスト」に、2020年12月期は「将来キャッシュ・フロー計画や割引率」に焦点を当てており、それに伴う監査上の対応も異なっているとされています。個人的には各監査人ともいわんとしていることは、将来CFの見積りと割引率の妥当性ということで、単なる表現の違いにすぎないように思いますが、対応が異なるということなので、監査報告書で該当部分を確認してみたところ以下の様になっていました。
➀2019年12月期
・当監査法人のネットワーク・ファームの評価専門家を関与させ、主として、公正価値の見積方法及び加重平均資本コストを評価した。
・経営者が使用した重要な仮定と、過去の実績、現在の経済情勢及びその他の関連する要因を比較することにより、重要な仮定を評価した。
・前年度の減損テストで使用した重要な仮定とその実績値を比較し、経営者による当年度の見積方法への影響を評価した。
・重要な仮定の変動に伴う報告単位の公正価値の変動を評価することにより、重要な仮定に対する感応度分析を実施した。
・報告単位ごとの公正価値の合計と会社の株式時価総額を比較した。
②2020年12月期
・キャッシュ・フローの実績と、過年度の将来キャッシュ・フロー計画を比較することで、正確な将来キャッシュ・フロー計画の策定に関する経営者による見積りの精度を評価した。
・将来キャッシュ・フロー計画を下記と比較することで、その合理性を評価した。
-過去のキャッシュ・フロー
-経営者や取締役会への報告資料
-会社の公開情報やアナリストレポートに含まれる情報、会社や関連する競合企業に関する業界レポートに含まれる情報
・当監査法人が所属するネットワーク・ファームの評価専門家を利用し、以下により実質価格の評価手法と割引率の合理性を評価した。
-評価手法や仮定が、実務上一般に公正妥当と認められる評価手法や同様な状況で利用される評価手法と整合的であるかの検証
-割引率の決定に利用されたデータと計算の正確性の検証
-監査人による割引率の許容範囲を設定し、会社が選択した割引率と比較
過去の見積と実績の比較による見積りの精度の検討、評価の専門家の利用という点では両者ともに同様といえますが、異なっている部分もあるようです。個人的に気になるのは、2020年のトーマツのKAMに記載されている「監査人による割引率の許容範囲を設定し」の許容範囲がどの程度のレンジなのかですが、監査基準に準拠した監査の質は監査人にかかわらず同水準以上であるはずという建前に立つと、監査人にかかわらず同様の方法を採用する場合に許容されるレンジはほぼ同じ水準になるということでしょう。