寡夫控除の所得要件を憲法違反と争うも敗訴
ひとり親に対する税制上の措置については、令和2年度税制改正で見直しが図られていますが、令和2年度税制改正前は、ひとり親が女性か男性か(寡婦か寡夫)によって、適用要件が異なっていました。
改正前は、ひとり親が男性の場合にのみ(すなわち寡夫の場合にのみ)、合計所得金額が500万円以下の場合に適用されるという要件が設けられていました。
なお、令和2年度税制改正後は、婚姻歴や性別にかかわらず、生計を同じとする子(総所得金額等が48万円以下)を有する単身者について、「ひとり親控除」(控除額35万円)が適用されることとなっており、所得制限についても女性、男性(寡婦、寡婦)にかかわらず同様の所得制限が設けられています(所得500万円(年収678万円)以下)。
改正前の性別による所得制限の扱いを無効と主張して争われたという事案がT&A master No.885(「寡婦控除の所得要件を差別と主張も敗訴」)で紹介されていました。
この事案は、「父子世帯の父親である原告が、自身が「寡夫」に該当することを前提に、所得税法81条に定める寡夫控除を適用し所得税の確定申告をしたところ、所轄税務署長から、合計所得金額500万円以下という同上の所得要件を満たさず寡夫控除の適用は認められないとして課税処分を受け」、性別による所得制限の有無が憲法14条1項に反し無効と主張して、課税処分の取り消しを求めたものです。
令和2年度税制改正で、性別に関わらず同様の所得制限が設けられたことからすれば、いずれにしても所得制限はかかるという方向性ではあるものの、寡婦であれば所得制限が課せられていなかったことから法の下の平等に反するというのも理解できます。
結果として、この原告の主張は退けられた(2021年5月27日東京地裁)わけですが、その理由について、上記記事では以下の点が述べられています(一部)。
・「租税法上の取扱いが性別によって異なっているという一事をもって、租税法の定立に関する総合的判断や専門技術的判断の必要性が変わるとは考えられず、立法府の裁量の尊重の必要性がなくなるとは考え難いのであって、租税法の分野における性別の取り扱いの差異についても、最高裁昭和60年判決と同様のいわゆる合理正の基準を適用すべきである。」
・「本件規定の立法経緯によれば、寡夫については妻と死別又は離婚した後も従前の職業を継続するのが通常であることや高額の収入を得ている者も相当割合に上がることなどを踏まえて本件所得要件が設けられたのであるから、母子世帯の母親と父子世帯の父親との間の租税負担能力の差異等に鑑みたことは明らか」
などとして、「税制改正前の本件規定における本件区分の態様が立法目的との関連で著しく不合理であったということはできない」としたとのとです。
一定以上の収入を得ているものを適用対象外とするのであれば、男性であっても女性であっても同様に規定しておけばよかったわけですが、立法当時は女性がひとり親で高収入を得るなどということが想定されていなかったので、立法上、そこまでケアしていなかったというだけなのだと思います。その改正が令和2年度までなされていなかったというのが日本的ということなのかもしれません。