執行役員から社長選出の定款変更が否決された株主総会事例
2021年3月決算の株主総会で集計結果などがちらほら記事として掲載されるようになってきました。会社提案の議案が否決される件数が増えてきたという旨の記事の中で、6月開催の総会で否決された事案の一つに乾汽船の例が取り上げられていました。
乾汽船では、執行役員から社長を選任できるようにする定款変更議案を上程したところ、賛成率が63.54%にとどまり否決されたというものです。もう少しで可決という水準ですが、それ以前に、どういう建付けの議案であったのか興味があったので、同社の招集通知を確認してみることにしました。
同社の招集通知によると、会社は定款に以下を追加する定款変更を上程しています(なお、変更箇所は以下だけではなく、複数個所の改訂が上程されています)。
第26条(執行役員)
取締役会は、その決議によって執行役員を定め、当会社の業務を分担して執行させることができる。
②取締役会は、その決議によって執行役員の中から社長1名、副社長1名、専務および常務その他の約付執行役員を定めることができる。
③社長は、取締役会の決議を執行し会社業務の全般を統括する。
こうような変更を行う理由については以下のように説明されています。
1.変更の理由
(1) 最適な経営体制の機動的な構築を可能とするため、執行役員から社長を選任できるよう変更するものです(変更案第26条第2項)。また、この変更に伴い、役付取締役に関する規定並びに株主総会及び取締役会の招集権者及び議長に関する規定について所要の変更を行うものです(変更案第15条第1項・第2項、第25条第1項・第2項)。なお、取締役でない執行役員から社長を選任する場合、株主の皆様の意思を尊重し、選任時の直近の株主総会において、その者を候補者とする取締役選任議案が否決されていない者から選任することを想定しております。また、原則として、選任後に初めて招集される定時株主総会において当該執行役員社長を取締役候補者とする取締役選任議案を上程することを想定しておりますが、万が一、当該取締役選任議案が否決された場合には、株主の皆様の意思を尊重し、当該執行役員社長以外の者を改めて社長に選任することを想定しております。
(2) 当社は、経営体制の強化を図るとともに、内部監査体制やリスク管理体制の整備及びディスクロージャーの充実に努めるため、執行役員制度を採用しておりますが、上記変更に伴い、執行役員の選任方法及び役割等を明確にするため、執行役員に関する規定を新設するものです(変更案第26条第1項・第3項)。また、この変更に伴い、条数の繰り下げを行うものです。
(3) 取締役会の監督機能をより一層向上させることを目的に、取締役会議長である取締役会長を除いて、役付取締役を廃止するものです(変更案第23条第2項・第3項)。なお、変更案第26条第2項の適用により、取締役を兼務する執行役員が社長その他の役付執行役員となる可能性はございます。
取締役会と執行者を分けて、それぞれの役割を果たせるようにしようという旨の変更のように考えられ、委員会設置会社までいかずとも、取締役会の機関設計の範囲で取締役役会の機能をより明確にするというという試みとしては面白いと個人的には思います。
しかしながら、一方で取締役でない執行役員の社長は、「代表取締役」ではありえないので、会社法上の代表権をもたない社長が、果たして問題なく職務を執行できるのかという問題はあるように思います。また、取締役の中に代表取締役がいるはずですので、特にオーナ企業では、オーナーの意のままに動く社長なのではないかという疑義も外形的に生じるという点も否定はできないと思います。
とはいえ「原則として、選任後に初めて招集される定時株主総会において当該執行役員社長を取締役候補者とする取締役選任議案を上程することを想定しております」とされており、取締役になることが前提となっているので、可決されてもよさそうではありますが、社長については事後的に追認するような形ではなく、事前に判断させてほしいという意見をもっている株主も多いということなのでしょう。
来年も説明などを充実させ、同じようなトライをするのか注目です。