役員報酬を約束手形で支払っても短期前払費用特例の適用対象外
税務通信3666号の税務の動向に「短期前払費用の特例に係る適用上の留意点②」が掲載されていました。
この記事では、役員報酬の支払形態を短期前払費用特例(法基通2-2-14)の適用対象となる「約束手形の振出」等とした場合の取扱いについて述べられていました。
役員報酬を「約束手形の振出」によって支払うという実務を経験したことがありませんでしたが、この記事によると、”「約束手形の振出」は、同特例の適用対象となることから、過去には、役員報酬の支払形態を「約束手形の振出」とした場合における同特例の適用の可否について問題となったケースも少なくないようだ」とされており、比較的ある事例のようです。
そもそも、”「約束手形の振出」は、同特例の適用対象となる”というところの意味がきちんと理解できていなかったので、改めて確認したところ、通達の「その支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るもの」について、”いわゆる支払手段としての手形の振出も、本通達の「支払った場合」に含まれると考えられる”(法人税基本通達逐条解説 第9版)とされていました。
役員報酬の約束手形による支払が、短期前払費用の特例の適用となるのかを巡って争われた裁決事例は、複数存在し、「いずれの事例でも、法人(請求人)の主張が棄却されている」とのことです。
敢えてチャレンジしたのか、単にいいことを思いついたと考えただけなのかはわかりませんが、とりあえず、実務上は役員報酬を約束手形で支払っても短期前払費用の特例の対象とはならないと認識しておきましょう。
約束手形の支払による役員報酬が短期前払費用の特例の対象とならない理由は、簡単に言えば、役員報酬は質的に重要性が乏しいとはいえないからということになるようです。
上記の記事で紹介されていた裁決事例(関裁(法)平8第65号(平成9年3月5日裁決)で「道徳例の適用対象外となる理由」として記載されていたのは、「役員報酬は、➀役員が株主等からの委任を受けて業務を遂行する対価であって、時の経過に応じて自動的、合理的に費用化される支払利息、地代、家賃等の前払費用とは性質を異にし、②企業の利益を生み出す重要な費用であると解される」と述べられています。
個人的には、役員報酬も基本的に期間に応じて支払われるものであるので、そういった意味での性質はあまり変わらないと思いますが、社外の第三者に対する支払よりも調整しやすいという面が大きいように感じます。