公認会計士・監査審査会、仁智監査法人に2度目の行政処分勧告
2022年1月21日に公認会計士・監査審査会は「仁智監査法人に対する検査結果に基づく勧告について」を公表しました。公認会計・監査審査会が同監査法人について勧告を出すのは2度目で、前回は2015年6月となっています。
まず、同監査法人が監査している上場会社が何社あるのかですが、直近の四半期報告書で検索してみたところ6社がヒットしました。多くはないですが、上場会社6社をクライアントとしてもっているというのはなかなかすごいことだと思います。とはいえ、決算期がうまく分散されていたり、監査報酬水準をそれなりの水準で設定できているというような状況でなければ、監査法人の経営としてうまくいくかは微妙なところかもしれません。
この点については、公表資料の中でも「しかしながら、法人代表者及び品質管理担当責任者を含む各社員においては、各人の個人事務所等における非監査業務への従事割合が高く、当監査法人における監査の品質の維持・向上に向けた意識が希薄なものとなっている」と述べられています。近年特に監査についての品質管理に高い水準が要求されるようになっていることからすると問題があるわけですが、中小監査法人ではこのような状況になりやすいというのはわかります。もちろん中小監査法人でも、しっかり対応している法人もありますが、各個人にとって、どちらかといえば監査業務はメイン業務ではないということは多いと思われます。
さて、具体的にどのような問題点が指摘されているのかですが、品質管理態勢については、「実施していない改善措置を実施したものとして日本公認会計士協会に報告するなど、改善措置の実施に真摯に取り組んでいない。」とされ、「その結果、今回審査会検査で検証した個別監査業務の全てにおいて、これまでの品質管理レビュー等での指摘事項と同 様の不備が繰り返されている。」とされています。
やっていないものをやったと報告するのは、虚偽記載と同様ですので、これはかなりまずいと思われます。
次に個別監査業務については、20行程度の中にこれでもかという位の内容が詰め込まれています。
・業務執行社員及び監査補助者は、監査の基準や、監査の基準で求められる監査手続の水準の理解、特に、不正リスクの評価及び対応に係る手続に関する理解が不足している
・職業的懐疑心が不足している
・監査品質の維持・向上に対する意識が不足している
・見直しの必要性を認識することなく、過年度と同様の監査手続を実施している
・業務執行社員は果たすべき役割を認識していない
・業務執行社員は、被監査会社が行う事業や取引の十分な理解に基づき、監査上のリスクを適切に評価する意識が不足している
・監査補助者に対する十分な指示・監督及び監査調書の適切な査閲を実施していない
・収益認識に関する不正リスクの識別及び不正リスクの対応手続が不適切かつ不十分
・受注損失引当金に係る会計上の見積りに関する検討が不適切かつ不十分
・重要な構成単位に関する監査手続が不適切かつ不十分
・継続企業の前提に関する検討が不十分
・固定資産の減損に係る会計上の見積りの検討が不十分
・工事進行基準に対するリスク対応手続が不十分
・重要な勘定残高に対するリスク対応手続が不十分
・監査チームメンバーの独立性の確認が不十分
・重要性の基準値に関する検討が不十分
・棚卸立会に係る手続が不十分
・内部統制や財務報告に関連する情報システムの理解が不十分
・監査役等とのコミュニケーションが不十分
上記を受け、最終的に「検証した個別監査業務において、重要な不備を含めて広範かつ多数の不備が認められており、当監査法人の個別監査業務の実施は著しく不適切かつ不十分なものとなっている。」とされています。
前回金融庁は同監査法人に対して業務改善命令という行政処分を下しましたが、今回も同様に業務改善命令という程度で済むのか、より重い行政処分が下されるのか注目です。