寄附金の損金不算入の適用があれば移転価格は適用されず
T&A master NO.915のニュース特集で「寄附金を巡る最近の裁決事例」が取り上げられていました。
このうちの1つが移転価格税制の適用と寄附金の損金不算入のどちらが適用されるのかが争われたものでした。
この事案で、請求人は価値算定を誤ったことにより、国外関連者に外国子会社の株式を適正な評価額よりも安い価格で譲渡していたことにより、適正な評価額と譲渡価格の差額を寄附金とする更正処分を受けたとされています。
請求人は、「国外関連者に対する資産の譲渡については、移転価格税制が優先的に適用され、寄附金課税は贈与の意思が認められ、取引に対価性がない例外的な場合にのみ適用されるなどと主張した」とのことです。
移転価格税制のセミナー等で、特に所轄の税務署では、本来移転価格税制で考えなければならないところを寄附金と主張してくることがあるので注意しましょうというのはよく耳にしますので、同様の争いは結構あるものだと思われます。
審判所は、適正な評価額との差額について、「その差額は現実に収受した対価の額で譲渡したことについて、通常の経済取引として是認できる合理的な理由があり、当該差額の費用としての性質が明白で明確に区分しうるものでない限り、我が国の課税権からの所得の海外移転と認められて、国外関連者に対する寄附金の額として、措置法68条の88第3項の適用を受けることになると指摘。そして、措置法68条の88第1項は、国外関連取引につき、連結法人が国外関連取引につき、連結法人が国外関連者から支払を受ける対価の額が独立企業間価格に満たないときには国外関連取引は独立企業間価格で行われたものとみなす旨を規定し、同条4項は、同条1項の適用がある場合には国外関連取引の対価の額と国外関連取引に係る独立企業間価格との差額は損金の額に算入しない旨を規定しつつ、括弧書きにおいて、当該差額から寄附金の額を除く旨を条文上明記していることからすれば、同条3項の適用を受けるものについては同条1項の移転価格税制は適用されないものと解されるとした」(T&A master NO.915 P4~5)とのことです。
租税特別措置法第68条の88(連結法人の国外関連者との取引に係る課税の特例)の条文をみていくと、まず同条3項では以下のように規定されています。
3 連結法人が各連結事業年度において支出した寄附金の額のうち当該連結法人に係る国外関連者に対するものは、当該連結法人の各連結事業年度の連結所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。(途中の括弧書きおよび以下省略)
同じく1項(括弧書き内省略)では以下の様に規定されています。
連結法人が、平成14年4月1日以後に開始する各連結事業年度において、当該連結法人に係る国外関連者との間で資産の販売、資産の購入、役務の提供その他の取引を行った場合に、当該取引につき、当該連結法人が当該国外関連者から支払を受ける対価の額が独立企業間価格に満たないとき、又は当該連結法人が当該国外関連者に支払う対価の額が独立企業間価格を超えるときは、当該連結事業年度の連結所得に係る同法その他法人税に関する法令の規定の適用については、当該国外関連取引は、独立企業間価格で行われたものとみなす。
そして問題の4項では以下の様に規定されています。
4 第1項の規定の適用がある場合における国外関連取引の対価の額と当該国外関連取引に係る同項に規定する独立企業間価格との差額(寄附金の額に該当するものを除く。)は、連結法人の各連結事業年度の連結所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。
確かに条文上、寄附金に該当するものは除くとされているので、寄附金の損金不算入の適用があれば、移転価格税制が適用されないというのは条文通りであることが確認できます。
納税者側は、税務当局が寄附金と主張してきた場合には、まずは寄附金でないことを明確に主張したうえでないと、移転価格税制で議論できないとすると結構面倒かもしれません。寄附金改めて勉強し直さないと…