取締役会議事録に記載しなければならない事項
会社法369条3項により、取締役会の議事については、法務省令で定めるところにより、議事録を作成し、議事録が書面をもって作成されているときは、出席した取締役及び監査役は、これに署名し、又は記名押印しなければならないとされています。
監査等で議事録を入手した場合、主に見るのは決議事項の内容と報告資料として添付されている資料だったりするので、何を記載しなければならないかについては気にしていなかったりしますが、あらためて「法務省令で定めるところ」について確認してみました。
確認してみると、会社法施行規則101条3項で「取締役会の議事録は、次に掲げる事項を内容とするものでなければならない」として以下の事項が挙げられていました。
①取締役会が開催された日時および場所
②特別取締役による取締役会であるときは、その旨
③定款等で定められた招集権者が招集した場合以外の場合は、その旨
④取締役会の議事の経過の要領およびその結果
⑤決議を要する事項について特別の利害関係を有する取締役がいるときは、当該取締役の氏名
⑥会社法で定める一定の規定により取締役会において述べられた意見又は発言があるときは、その意見又は発言の内容
⑦取締役会に出席した会計監査人または株主の氏名または名称
⑧取締役会の議長がいるときは、議長の氏名
①について、最近ではリモートで取締役会に参加するということも一般的になってきていますが、「取締役会が開催された場所にいない取締役、監査役、会計監査人または株主が、取締役会に出席をした場合における当該出席の方法が含まれる」(「株主総会 取締役会 監査役会の議事録作成ガイドブック 第3版」三井住友信託銀行 ガバナンスコンサルティング部編 P130)とされています。
なお、リモート参加の取締役等がいる場合には、「情報伝達の双方向性および即時性が確保される必要があるとの見解に加え、開催場所を観念できない取締役会は、取締役会を開催したものと会社法上評価できないとの見解が示されている」とされています。前半に関しては、議事録に残すのであれば審議に支障がないことを確認した旨を記載しておけばよいと考えられます。「開催場所を観念できない取締役会」というのは、具体的にどのような状況なのかがわかりませんが、例えば取締役会事務局がZoom等の設定を行い、参加者が全員リモートで取締役会が開催されたような場合に、開催場所はどこなのかというような問題はおこりうるのかもしれません。
③に該当するのは、以下のようなケースです。
・招集権者以外の取締役の招集請求を受けて招集された取締役会(366条2項)
・招集権者以外の取締役が招集した取締役会(366条3項)
・監査役の招集請求を受けて招集された取締役会(383条2項)
・監査役が招集した取締役会(383条3項)
・監査等委員会が選定した監査等委員が招集した取締役会(399条の14)
⑥の「会社法で定める一定の規定により取締役会において述べられた意見又は発言」の「一定の規定」には以下が該当します。
・競業取引、利益相反取引を実行した取締役による取引後の重要事項に関する報告(365条2項)
・会計参与を設置している場合に、会計参与が述べた意見(376条1項)
・取締役の不正行為等に関する監査役、監査等委員、監査委員の報告(382条、399条の4、406条)
・取締役会における監査役の意見(383条1項)
・補償契約に基づく補償をした取締役および当該補償を受けた取締役による報告(430条の2第4項)
<書面決議の場合>
取締役会設置会社において、定款の定めにより、いわゆる書面決議を認めることとしている場合(会社法370条)で、当該定款の定めに従って、提案を可決する旨の取締役会の決議があったものとみなされたときは、以下の事項を議事録に記載することが求められています(会社法施行規則101条4項1号)。
①取締役会の決議があったものとみなされた事項の内容
②上記①の事項の提案をした取締役の氏名
③取締役会の決議があったものとみなされた日
④議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名
<報告事項を省略した場合>
取締役、会計参与、監査役又は会計監査人が取締役(監査役設置会社にあっては、取締役及び監査役)の全員に対して取締役会に報告すべき事項を通知したときは、当該事項を取締役会へ報告することを要しない(会社法372条)とされており、この場合には以下の事項を議事録に記載することが求められています(会社法施行規則101条4項2号)。
①取締役会への報告を要しないものとされた事項の内容
②取締役会への報告を要しないものとされた日
③議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名
書面決議の場合および報告事項を省略した場合については、通常の取締役会の議事録と異なり、「議事録の作成に係る職務を行った取締役の氏名」が記載事項として求められています。逆にいうと、原則としては取締役会議事録の作成者について会社法上は特段の定めはなく、取締役会に出席した取締役および監査役は、議事録に署名または記名押印をしなければならないとされているのみです(369条3項)。なお、記名押印する場合の印鑑についても、登記の要請で必要となる一定の場合を除き、特に実印でなければならないということはありません。
議事録の作成時期や期限についても会社法に明文の定めはありません。ただし、商業登記の添付書類として取締役会議事録が必要となる場合、変更登記は登記事項に変更が生じたときから2週間以内にしなければならない(915条1項)とされているため、この期間が一つの目安となるとのことです。