物価高騰による減額改訂に定期同額の弾力的運用なし
物価高騰等の影響で業績が悪化し、期中に役員給与の減額改訂に踏み切る企業も少なくないようですが、ウクライナ情勢等のに端を発する物価高騰の影響による業績悪化の場合、新型コロナ拡大当初のような弾力的な運用は行われず、原則どおりの取り扱いとなるとのことです(税務通信 3717号 「物価高騰による減額改訂では弾力的な運用なし」。
直近1ヶ月程度の決算発表資料においてIAS29号「超インフレ経済化における財務報告」について言及している会社が数社見受けられました。ざっと目についたところでは、ダイドーグループホールディングス、日本ペイントホールディングス、住友ゴム工業、日本たばこ産業の4社がIAS29号について言及していました。日本たばこ産業以外は「トルコ」が対象となっていることが明示されており、日本たばこ産業もトルコに関してインフレの記載がありましたので、おそらくトルコを対象としたものだと推測されます。
ダイドーグループホールディングスは2022年8月26日に公表した「通期業績予想の修正に関するお知らせ」において、「連結売上高につきましては、海外飲料事業(トルコ飲料事業)の大幅な増収が見込まれる」としつつも、利益面では、「かねてより高騰傾向にあったコーヒー豆をはじめとする原材料価格に加えて、直近の国際情勢の変化による原油価格の高騰や急速な円安の進行に伴い、製造や配送にかかるエネルギーコストなど、あらゆるコストが著しく上昇しており、その傾向は今後も続く見通しであることや、トルコ子会社における IAS 第 29 号「超インフレ経済下における財務報告」に定められる要件に従った会計上の調整が多額にのぼることが想定されることから、業績予想数値を修正いたします」として、連結営業利益の通期予想を従来の33億円から7億円(△26億円)と大きく下方修正しています。
値上げされるものが徐々に増えてきているという実感はあるものの、企業側からすると単純に物価上昇即価格転嫁というわけにもいかないというケースが大多数でしょうから、仕入れコストの上昇等によって利益が圧迫されているということも多いのではないかと思います。
そこで冒頭の様に、役員報酬を減額改訂するということを検討することがあり得るわけですが、「単なる物価高騰等に伴う業績悪化のみでは「業績悪化改訂事由」に該当しない」とのことです。
よって、物価高騰等による業績悪化の場合においては「役員給与に関するQ&A 」(平成20年12月(平成24年4月改訂)国税庁)に例示されているようなケースに該当しないと定期同額給与の判定で問題となるとのことです。
具体的には、上記Q&Aで以下の例が挙げられています。
①財務諸表の数値が相当程度悪化したことや倒産の危機に瀕したこと
②経営状況の悪化に伴い、第三者である利害関係者(株主、債権者、取引先等)との関係上、役員給与の額を減額せざるを得ない事情が生じている場合
③現状では売上などの数値的指標が悪化しているとまでは言えないものの、役員給与の減額などの経営改善策を講じなければ、客観的な状況から今後著しく悪化することが不可避と認められる場合
また、②については、さらに以下のような三つのケースが例示されています。
・株主との関係上、業績や財務状況の悪化についての役員としての経営上の責任から役員給与の額を減額せざるを得ない場合
・取引銀行との間で行われる借入金返済のリスケジュールの協議において、役員給与の額を減額せざるを得ない場合
・業績や財務状況又は資金繰りが悪化したため、取引先等の利害関係者からの信用を維持・確保する必要性から、経営状況の改善を図るための計画が策定され、これに役員給与の額の減額が盛り込まれた場合
上記は例示なので、第三者である利害関係者との関係上、役員給与の額を減額せざるを得ない事情があるときには、減額改定をしたことにより支給する役員給与は定期同額給与に該当するとされていますが、事後的にきちんと説明できるようにしておく必要があります。
最後に、③における「客観的な状況」について、Q&Aでは「売上の大半を占める主要な得意先が1回目の手形の不渡りを出した」、「主力製品に瑕疵があることが判明して、今後、多額の
損害賠償金やリコール費用の支出が避けられない場合」などが例示されている一方、「客観的な状況がない単なる将来の見込みにより役員給与を減額した場合は業績悪化改定事由による減額改定に当たらない」とされており、発生する可能性が高いという状況では「客観的な状況」としては不十分と判断される可能性が高いと考えられます。
この点を踏まえ、税務通信の記事では、「客観的な状況(取引左記の経営状況等)を立証等できるように疎明資料等を準備しておくことが肝要だ」とされていました。