デューデリジェンス(DD)費用の税務上の取り扱い
M&Aに関連して実施されるDD費用の取り扱いについてです。
DD費用を有価証券の取得に係る付随費用として取得原価に含める必要があるのかという点が問題となり、この点については、株式取得の意思決定のタイミングがポイントとなるというような説明を聞いたことがあるかもしれません。
国税不服審判所の裁決事例(平成22年2月8日付国税不服審判所福岡支部裁決)では、「他社を買収するに当たって支出した取得関連費用につき、どの有価証券を購入するか特定されていない時点において、いずれの有価証券を購入すべきであるか決定するために行う調査等に係る支出は、この有価証券の購入のために要した費用には当たらないものの、特定の有価証券を購入する意図の下で有価証券の購入に関連して支出される費用は、有価証券の購入のために要した費用として当該有価証券の取得価額に当たるものと解されるところ、取締役会でその株式を取得することを決議した後で依頼した財務調査費についてはその株式の取得価額に含めるべき」(「有価証券の取得に係る取得関連費用の会計および税務処理について」税務通信3733号太田達也氏)とされています。
実務上、DD費用を損金算入したいという思惑が働くと、上記の「取締役会でその株式を取得することを決議した後で」という部分に着目し、株式を取得する意思決定をしないようすればよいのではないかという発想もでてきます。
ロングリストの中から絞り込みを行ううえで、外部の専門家を利用して調査を行うこともあり、ここで要する費用は上記でいうところの「いずれの有価証券を購入すべきであるか決定するために行う調査等に係る支出」にあたると考えられます。しかしながら、一般的にDDといえば、対象会社を取得する前提で実施されるものを指していることが多いと考えられます。DDの結果、買手が許容できない事象が発見されたり、価格の調整交渉がまとまらなかったりして取得に至らないことはありますが、買手も売手も基本的には交渉をまとめようとして費用をかけてDDを実施し、受け入れているということが普通だと考えられます。
上記の税務通信の記事では「取締役会で株式を取得する旨の決議をした後に発生する取得関連費用は、有価証券の取得のための付随費用に該当すると考えられますが、取締役会の決議という事実関係がなくても、買収先が実質的に絞り込まれており、買収するかどうか、あるいは買収価額をいくらにするのかという判断のために行われた調査費用についても、付随費用であると判断されることが考えられます」とされており、DDが実施される一般的な状況を踏まえると、基本的にはDD費用は付随費用として有価証券の取得原価に算入する必要があるという認識をもっておくのが無難だと考えられます。