「スキャナ保存」の落とし穴?-民事裁判での証拠力は・・・
電子帳簿保存法におけるスキャナ保存の要件が改正されたことなどにより、税務上、スキャナ保存が行い易くなったという件は以前取り上げましたが、ビジネスガイド2017年5月号に”契約書・領収書等「スキャナ保存」の落とし穴”という宮内 宏弁護士による記事が掲載されていました。
この記事の中で、電子保存した場合、民事訴訟において証拠としてどのような取扱いとなるのかについて述べられていました。
結論としては、「税務署がOKであっても、裁判官や訴訟の相手方がOKといってくれるわけではありません」とのことです。スキャナ保存については、会計監査を受ける場合には、会計監査面でも問題がありますが、民事訴訟になった場合の取扱いについても注意が必要なようです。
民事訴訟で、文書が証拠として採用されるためには、「真正な成立」を証明する必要があるとのことです(民事訴訟法224条1項)。ここで「真正な成立」とは、その文書の作成者とされる者(本人)がその意思に基づいて作成したことをいい、紙の文書の場合は、本人の署名または押印があれば、真正な成立が推定されるとのことです(民事訴訟法228条4項)。
推定なので覆すことも可能ではありますが、裁判で証拠として利用しようとする場合、押印された契約書があれば、基本的には本人が本人の意思で作成した者という前提で取り扱って貰うことができるということです。
ここで、電子保存したデータを証拠として提出しようとする場合も、真正な成立を証明する必要があるところ、相手方が真正な成立を争ってきた場合、証拠を提出した側がそれを立証することが必要となります。
相手方が自分が押印した文書とデータが異なるという主張をしてきたような場合に問題になると述べられています。
紙の文書であれば原本をみれば加工されているか否かが判別しやすいところ、データの場合は、文書を加工した後にスキャンして電子データとして保存されると、電子データから改変の有無を判断するのが困難であるという性格を有するため、「スキャンしたデータは、原本よりも証拠としての価値が下がることとなる」とのことです。
この考え方は、会計監査における電子データの取扱いと同様となっています。
このため、民事訴訟で利用する可能性があるような重要な契約書では原本の保存しておく必要があると述べられています。結局のところ、スキャナ保存については、会計監査が無関係であっても、何らかの訴訟に関係しそうかどうかを勘案して原本を保存するか否かを判断するのが重要ということのようです。