総会決議で付与決議が否決されたストック・オプションはどんなもの?-大戸屋
本日の適時開示されものの中に大戸屋ホールディングスの「第34定時株主総会における議案の一部否決に関するお知らせ」というものがありました。
何が否決されたのかと開示資料を確認してみると、第4号議案「ストックオプションとして新株予約権を発行する件」について本議案の可決に必要な3分の2の賛成が得られなかったため否決された旨が記載されていました。
特別決議となっていることから、否決されてしまうほど、ものすごく有利な条件となっているのかと興味津々で条件等を確認してみると以下のような内容でした。
対象者:当社執行役員及び従業員ならびに当社子会社取締役、執行役員及び従業員
対象株式の種類、数:普通株式 上限12万株
行使価額:割当日の属する月の前月の各日(取引が成立していない日を除く。)の東京証券取引所における当社普通株式の普通取引の終値の平均値に1.05を乗じた金額
同社の発行済株式総数は約720万株ですので、行使価額も発行数も取り立てて問題がある感じではありません。なんでこんなものが否決されるのかと、ネットを検索してみると、答えはお家騒動ということでした。
お家騒動というと大塚家具のような親子間の争いもありますが、大戸屋の場合は創業家と現社長というどちらかといえばよくあるパターンのお家騒動です。
1.お家騒動の経緯
日経ビジネスオンラインの記事等によると、発端は同社の創業者で代表取締役会長であった三森久実氏が2015年7月に57歳という若さで亡くなったということにあるようです。
三森久実氏の息子の智仁氏(平成元年生まれ)は金融機関での勤務を経て2013年(平成25年)4月に大戸屋に入社し、2015年(平成27年)6月に常務常務取締役海外事業本部長に就任しています。
上記の記事によれば、前会長は余命が長くないことをわかっていたそうですので、ご自分が亡くなる前に息子を役員にしておこうという親心だったのか、前会長を安心させてあげたいとういう現社長(前会長のいとこ)のはからいだったのかは定かではありませんが、年齢や経験から面白く思わない人もいたと想像されます。
が、結局、智仁氏は1年で取締役を退任しています(任期1年)。日経ビジネスオンラインの記事は智仁氏へのインタビューに基づいており、言った言わないという部分もあるので何が真実かはわかりませんが、2016年3月期の株主総会の取締役選任議案において智仁氏が提案されなかったというのは事実です。
2.総会での決議割合はどのくらいだったのか。
本日(2017年6月29日)にEDINETに提出された臨時報告書によると、以下のような結果となっています。
第2号議案「弔慰金贈呈の件」と第3号議案「創業者功労金贈呈の件」を除き、反対数が大きくなっています。創業家の持株数を確認すると2名合計で1,351千株(議決権13,510個)なので、上記2議案以外は創業家が反対票を投じていると考えられます。
ここで、興味深いのは、第2号議案および第3号議案について創業家が賛成票を投じているわけでもないという点です。株主が自らの利益のために議決権行使をするのは本来問題ないはずですが、退任取締役に対する退職慰労金贈呈決議において当該退任取締役である株主が議決権を行使しなかったならば、当該慰労金贈呈議案が総会で可決されなかったと認められる場合に、決議内容も著しく不当として決議が取り消されたという裁判例もあるため、議決権行使を棄権するというのが無難な選択ということになると思われます。
ただし、今回のケースでは「棄権数(個)は0となっているかわりに、「5.比率の算定に当たっては、意思表示を無効とした事前行使分についても出席株主の議決権数に算入しております」とされており、創業家の議決権行使は無効票扱いとなっているのかもしれません。
3.前回の総会はどうだったのか?
前回の株主総会で既に智仁氏が取締役に再任されていないで、前回の株主総会ではどのような議決権行使結果となっていたのだろうとEDINETを検索してみると、株主総会の決議に関する臨時報告書が見当たりませんでした。はじめて気づきましたが、臨時報告書については全期間表示にしても直近のものしか表示されないようです。
というわけで別のデータベースで確認してみると、監査役の選任議案も含めきれいに14,000個程度の反対票が投じられていました(賛成割合は62%程度)。さらに1年遡り2015年3月期の決議割合をみると、反対票は300個程度で賛成割合は92%となっています。
4.ストック・オプション議案を可決する方法(その1)
創業家の持株比率は、約19%とそれほど高くありませんが、創業家が反対に回ると上記のとおり賛成割合が約30%低下します。同社の株主数は25,003名で、発行済株式総数7,198,363株(自己株式137株除く)より議決権総数は約7万2000個となっています。
一方、総会で行使された議決権の総数は、約42,000個で、30,000個は議決権が行使されずに眠っている状態です。同社は株主優待を実施しており3月末に100株以上株式を保有していると店舗で使用可能な2,500円分の商品券をもらえます。通常の配当利回りも1.2%程度となっており、株主数の多さからすると優待及び配当目的で1単元を保有しているだけの個人株主も多いのではないかと思われます。
特別決議として否決された議案の賛成率は約63%で、行使されていない議決権のうち1700個程度の賛成票を獲得できれば特別決議であっても可決することが可能となると見込まれます。
株主からは不評でしょうが、株主優待の交付条件を議決権行使した株主に限るとすれば、おそらく議決権行使数も増加し、特別決議であっても可決される可能性が高いと思われます(議決権行使で500円プラスという手もある)。
5.ストック・オプション議案を可決する方法(その2)
今回特別決議で処理しているのでやりにくい方法ではありますが、そもそも普通決議の議案という整理もあり得ます。
前述のとおり、行使価額などはよくあるタイプのものであり、「会社法では、ストック・オプションの付与については、新株予約権の有利発行に該当しないのが通常である」という会社法の立法担当者の見解もあることからすれば、普通決議で可決するということも考えられます。
もっとも、子会社の役員もしくは従業員を対象者に含む場合は、有利発行として特別決議が行われているケースもあり、同社における過去の決議方法等の整合性、あるいは創業家からのクレームの可能性などから、特別決議とせざるを得ないということなのかもしれmせん。
6.後継者計画の必要性
コーポレートガバナンスコードの補充原則4-1③では最高経営責任者等の後継者計画について取締役会が監督すべきことが述べられていますが、ここまで要求されない新興市場であっても、上記のようなケースが生じることからすると、特にオーナー会社では余裕をもった後継者計画の策定・実行が求められるといえそうです。