取引所の相場のない株式の評価-平成29年度税制改正
平成29年度税制改正で取引相場のない株式の計算方法等が変更されていますが、きちんとフォローしていなかったので、今回内容を確認してみることにしました。
主な改正内容は以下のとおりとなっています。
1.会社規模の判定基準に用いる従業員数の変更
改正前は、従業員数が100名以上会社が「大会社」に区分されていましたが、改正により従業員数が70名以上の会社が「大会社」に区分されることとなりました。
2.取引額基準の判定基準額の変更
改正前は、卸売業であれば直前期末以前1年間における取引金額が80億円以上、製造業(卸売業、小売・サービス業以外)であれば20億円以上の場合に「大会社」に区分されることとされていましたが、改正により卸売業は30億円以上、製造業は15億円以上に基準値が引き下げされています。
3.類似業種比準価額の計算式における比準要素の比準の変更
改正前は、配当金額、利益金額、純資産価額の三つの比準要素の比重が1:3:1でしたが、改正により1:1:1に改正されました。過去の改正の経緯を確認してみると、平成12年6月の財産評価基本通達の改正によって、比重が1:3:1(改正前が1:1:1)に変更されており、今回の改正によって平成12年6月前の状態に戻ったということのようです。
従来の計算方式では、一般的に業績が好調な会社は評価額が高くなる傾向がありましたが、改正後は業績が好調であっても、従来よりは評価額に与える影響が弱まると考えられます。
一方で、最近の業績はよくないものの、かつては好調であったことから内部留保が潤沢である会社の場合は、今回の改正によって反対に評価額が高くなるということも考えられます。
今回の改正の背景には社会問題化しつつある中小企業の事業承継を円滑にするという目的があるようですので、落ち目の会社よりも成長している会社に有利なようにできているということかもしれません。
4.類似業種の株価の選択肢の追加
平成29年度税制改正によって、類似業種の株価の選択肢に「課税時期の属する月以前2年間の平均株価」が追加されました。これにより、改正後は以下の五つの中から最も低い株価を選択することができるということになります。
①課税時期の属する月の株価
②課税時期の属する月の前月の株価
③課税時期の属する月の前々月の株価
④前年平均株価
⑤課税時期の属する月以前2年前の平均株価
改正によって上記⑤が追加されたのは、「アベノミクスの下での上場会社の株価の急激な上昇に伴い、中小企業の中には業績に大きな変化のない状況下であっても想定外に株価が高く評価されることにより、円滑な事業承継に影響を来す可能性も生じているとして、より一層の評価減が求められていました」(「平成29年度 税制改正の要点解説」(清文社))ということがあるとのことです。
従来よりも評価額が安定することとなり、不合理と思われる評価額の上昇を抑えることができるというメリットはあると思われます。
5.類似業種比準要素の金額の見直し
類似業種比準要素の金額が、単体決算から連結決算を反映した金額に見直されています。これは、上場会社のグローバル連結経営の進展を反映するという観点からの改正とのことです。
類似業種比準方式が採用される「大会社」は上場会社に匹敵するような規模の会社という建前であるため、上場会社が連結重視になっている以上、それを反映させましょうということのようです。
「大会社」に区分される基準値が下げられていることとは整合しないように感じますが、これも事業承継を円滑に行うことを可能にするための目論見ということのようです。つまり、連結決算が反映されると、通常子会社の利益によって比準要素となる利益の金額も大きくなると考えられるため、評価額は引き下げられるということです。
以上が、主な改正内容でした。